… … …(記事全文4,357文字)母が退院して私が両親の面倒を見る老老介護生活が始まってから1カ月が経った。退院時、周囲の人たちから様々な声をかけてもらった。
「ヘルパーさんに来てもえばいいんだよ」
「大変だなあ」
「お疲れさま」
「ご苦労さま」
「一人で二人の面倒を見るのはまず無理だ」
「どちらかに施設に入ってもらうのがベストの策だ」
しかし、いくら労ってもらっても、施設に入るのは二人とも拒絶し入るなら相手の方だと言って聞かないのだから、結局のところ私が二人の面倒を見るしかないのが現実である。「そして僕は途方に暮れる」という歌が頭の中で流れていた。
●最初の問題は便秘
母が退院して2日後に看護師さんが訪問してくれることになっていた。いわゆる「訪問看護」であり、検温、血圧と血中酸素濃度の測定などの身体の状況把握や悩みなどを聴き取り、心のケアをしてもらうのが目的である。
実は、退院2日後に母が便秘で苦しみ七転八倒の状態だったのだ。便秘にはもう何十年も悩まされており、市販薬はほぼ試して効果がないことが分かっていた。インターネットで怪しいお茶やクスリなど、高価なものでも取り寄せては試し、試しては取り寄せることを繰り返していた。しかし、特効薬は見つからなかった。医者を頼っても、ほとんどが酸化マグネシウム系のクスリを処方される。長年の経験から母は「私には酸化マグネシウムは効きませんから」と前もって医師に伝えるほどだった。
少しでも通じがないと、気になる神経質な部分も災いしているのは確かだ。出口(肛門)で便が固まりどんなに気張っても出ない。そうなると腹が苦しくなり、どうにも我慢できなくなる。高齢で排便に使用する筋肉の力が弱っているせいもある。最後の手段は、浣腸である。何度も薬局へ買いに行かされた。浣腸をして肛門を傷つけ、肛門科へも連れて行ったことがある。その医師によれば「辛いときにはいつでも来なさい。指で掻き出してあげるから」とのことだった。その肛門科へも何度も通った。
今回は、肛門科へ連れて行くわけにはいかず、入院していた病院に電話してみた。たまたま訪問看護師が在席しており、相談に乗ってくれた。「今日は訪問日ではないけれども、これから行きます」との回答が返ってきたので安心した。看護師さんが来宅し、すぐに掻き出しをしてくれたので、母もずいぶん楽になった様子だった。「入院中はどう対処していたのですか」と私が尋ねると、「ラキソベロンという下剤を使用していました」とのこと。ラキソベロンとは、大腸検査(X線、内視鏡)前処置における腸内容物を排除するためのクスリで、自然に近い排便を起こさせるという。病院からはラキソベロン内用液が処方されていた。
「長年便秘に悩んで来ました」と看護師さんに相談した。「昨日はどれくらい服用しましたか」と訊かれ「5滴です」と答えた。「悩みますね。お通じが数日ない場合は、10滴飲んでみてください」と指示された。しばらくして、指示どおり10滴服用した日の夜、今度は下痢で寝巻きを汚す事態になってしまった。
その後、訪問した看護師にまた相談すると困った表情を浮かべた。母が突然、「バナナを食べたら効果がある」と言い出した。入院前にバナナを毎日食べていたのを思い出した。「それでは、バナナを食べながらお通じがない時は、7滴にしましょう」と看護師さん。現在は、通常3滴、異常時は5滴で落ち着いている。何ともお騒がせな母であった。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)