… … …(記事全文3,692文字)●要介護2の老夫婦とホームヘルパー
その建物の中には、介護用ベッド(特殊寝台)が2台、室内用歩行器が2台、屋外用歩行器が1台ある。玄関の階段には手すりが、浴室には突っ張り棒式の手すり、シャワー用椅子、浴槽内椅子、浴槽出入用手すり、滑り止め、トイレには、やはり突っ張り棒式の手すり、便器への移乗動作を補助する手すり、低い段差がある部分にはスロープが施され、最低限のバリアフリー機能が確保されている。
この器具などを使用するのは、90代の老夫婦であり、ともに要介護2の認定を受けている。洗顔、食事、排せつは自分でできるものの、その他の家事を一切することができない。そこで、「ホームヘルパー」が全ての家事を担っている。この「ヘルパー」は、60代後半の男性なのだが、無資格で研修などは受けていない。したがって、当然のことながら介護福祉士や介護支援専門員の国家資格などは持ち合わせていない。
この「ヘルパー」は、珍しく住み込みで24時間対応。食事の準備、後片付け、清掃、洗濯、買い物、入浴時の介護などを1人でやってのける。しかも無報酬でこなしている。老夫婦の仲は決して良好とは言えず、2人とも耳が遠いため互いの意思疎通はほとんど取れていない状況である。それゆえに、2人はそれぞれ自分勝手なことを「ヘルパー」に要求して来る。「ヘルパー」はその辺をわきまえていて、2人とは最低限のコミュニケーションをとることで済ませている。
少し誇張した表現になったかも知れない。何を隠そう、この建物とは介護施設などではなく我が家、老夫婦とは私の両親、「ホームヘルパー」とは私自身のことである。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)