… … …(記事全文4,421文字)●教育現場への政治介入 朝日新聞が報道
「『政治介入だ』 処理水めぐる自民党意見書の撤回、教職員組合求める」
朝日新聞の3月9日付記事である。紙面では地域面(福島)にのみ掲載されたが、本来であれば、全国版一面トップ扱いでも不思議ではない。その内容は、目を疑うものであり、どこまで汚染水の海洋投棄についてプロパガンダを継続するのかと、その徹底ぶりには唖然とするばかりである。
問題となっているのは、東京電力福島第一原発からの汚染水海洋投棄をめぐり、福島県議会自民党会派から2月定例会に出されている意見書である。その内容を以下に示す。
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「教育現場におけるALPS処理水の理解醸成に向けた取り組みの強化を求める意見書」
1月下旬に開催された教職員団体の全国集会において、処理水を「汚染水」と表現した教材を使用した授業の実践例が報告されたとの報道がなされた。この事案は、科学的根拠もないまま、処理水を「核汚染水」と称して虚偽の情報を世界中に発信している中国と同様であると言わざるを得ず、またそれ以上に、純粋な子どもたちに学びを教える現場での事案であることから、看過できない問題である。教育現場においても、科学的な根拠に基づいた正確な情報による適切な教育が行われるべきである。
よって、国においては、次の措置を講ずるよう強く要望する。
1 処理水の海洋放出は長期にわたることから、全国の教育委員会に対し、放射線副読本はもとより、処理水について分かりやすい適切な資料等の活用について、改めて強く求めていくこと。
2 出前授業の拡大や教員に対する研修を通じ、放射線副読本の活用をより促進していくとともに、1人1台端末等を活用した放射線副読本の活用事例の全国展開に向けた取り組みを強化すること。
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この意見書について、福島県立高等学校教職員組合が8日会見し、「教育に政治が介入することを求めるもので、極めて危険だ」として撤回を求めた。
高教組の永峯秀明執行委員長は会見で、「政府見解だけを教えることになった戦前の過ちを繰り返しており容認できない」と主張。「結果的に教職員を萎縮させる。児童生徒が様々な視点から考える機会を奪うことになる」と訴えた。この日は抗議アピールなどを県議会の各会派に提出したという。
意見書をめぐっては、小中学校などの職員でつくる福島県教職員組合も7日、書記長談話を公表。「意見書は教育に対する政治的介入で、学問の自由を保障するものではない」として取り下げを求めている。
意見書は18日に商労文教委員会で採決され、その後、19日の本会議にかけられる見通しだ。
●出前授業の拡大
記事の内容は以上のとおりである。ここで、意見書にある「出前授業」とは福島県外では聞き馴染みがないかも知れないので説明する。経産省職員が講師となり、全国の高校を対象に「ALPS処理水」の安全性を一方的に伝える授業である。経産省からの案内に希望する高校は応募し、抽選の結果選ばれた高校で実施される方式がとられている。
お題目は、「福島の復興へ みんなで考えよう ALPS処理水のこと」だが、実際の授業記録を入手した福島県の親友M氏によれば、不都合な情報はすべてやり過ごし、生徒との議論はなく、安全性だけをひたすらアピールし、多くの生徒が信用する結果になっている。その状況に困惑している教育現場もあるということだった。
●戦前の教育統制か
高教組や教職員組合が主張するとおりである。旧稿で拉致問題に関する教育現場への政治的介入について書いたが、汚染水放出でも同様なことが行われている。また、意見書の危うさは国への要望であることだ。全国の教育委員会も「右に倣え」せよということだ。
言うまでもないが、教育基本法第十六条には「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」とある。意見書は、「不当な支配に服する」もの以外の何ものでもないのは明らかである。多感な子どもたちから思考の多様性を奪いとるもので到底許容できない。
現在も福島県議会という場で戦前を思わせる教育統制が堂々と行われていることに強い危機感を覚える。
●規制庁事務所長は元東北電力社員 新潟日報が報道
続いて新潟日報の3月13日付の報道へ話を移す。
「福島事故を機に」「元電力社員の視点駆使」「原発監視の勘所を熟知」「信頼回復へ住民と対話」といった見出しが躍る。何のことかと思いきや、「聞きたいこの話題」という随時掲載記事での原子力規制庁柏崎刈羽事務所長(以下「事務所長」)へのインタビューだった。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)