Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

CGTN(中国国際電視台)取材の意図は

●CGTNから取材依頼メールが

 前稿では、フリー・ジャーナリスト田中龍作氏の取材について取り上げた。それより前に私のところへは、複数の媒体を介して以下の同じ内容の取材依頼メールが来ていた。


「初めまして、わたくしはフリーランスで映像制作の仕事をしております〇〇と申します。

現在、中国中央テレビ局CGTN(China Global Television Network)の依頼を受けまして福島第一原発と処理水放出の取材を行っております。


CGTNは、英語でニュースを24時間放送している中国の放送局です。

https://www.cgtn.com/


この度は、蓮池透様に是非お話しをお伺い出来ないかと思いましてご連絡差し上げました。

中国の報道は日本に対してネガティブなものが多いですが今回取材のため来日するジャーナリストは、2011年の東日本大震災時には留学生として日本に住んでおりました。ただただ日本を批判するニュースとしてではなく、現地の生の声を伝えたいという気持ちで今回取材に当たっております」


 中国の放送局は国営であり、いくら国際向けとはいえ、そのスタンスは政府寄りであるのは疑う余地もない。「ただただ日本を批判するのではなく、現地の生の声を伝えたい」とされても、にわかに信用することはできなかった。


 CGTNといえば、世界最大規模のテレビメディアであるが、米国司法省が、CGTNを「外国代理人登録法」に基づく「外国のエージェント」として登録するよう命じたことや、イギリスの情報通信庁が、事実上の編集権を握っている制作会社が中国共産党の支配下にあり、政治団体が運営する会社は放送免許を持つことを禁止している放送法に抵触しているとして、イギリス国内におけるCGTNの放送免許を取り消すなどのニュースを目にしていたからだ。


●取材に応じる

 それでも、繰り返しオファーがあり、柏崎市まで出向くということからインタビューに応じることに決めた。


 指定された場所は、市中心部にある「市民プラザ」であった。原発マネーが絡んでいる施設(「ハコモノ」)で原発反対意見を述べるとは皮肉なことだ。中国クルーは、インタビュアー、カメラマン、アシスタント、通訳、コーディネーターの5人で、撮影機材は一眼レフカメラ、照明板、ワイヤレスマイクと簡素であることに驚いた。「会場入り」の場面から撮影が始まった。街中を歩く姿を撮りたい、自前のPCや資料を持参してそれを見ながら喋ってくれなどの急なリクエストがあったが、当初の依頼が「東京電力勤務時代の写真があったら見せて欲しい」のみであったためすべて断った。


●質問の内容

 主な質問内容は以下のとおりだった。

1. 東京電力で働いていた当時の主な仕事内容について教えてください。

2. 蓮池さんは元・東京電力社員ですが、今は原発反対という立場を取っておられますね。その理由をお聞かせください。

3. 蓮池さんは東京電力で核廃棄物再処理事業(MOX燃料)に携わっていたと伺っております。科学的見地からすると、処理水放出はどのような問題を抱えていますか?

4. これまでの東京電力の原発事故への対応・取り組みをどう評価されますか?

5. 先日、X(旧・twitter)で、『国・県・東電・マスコミが渾然一体となってプロパガンダを展開し、ゴリ押しする「処理水放出」』と投稿されているのを拝見しました。どうしてこのように呟いたのか、その時の気持ちを教えてください。

6. 多くの一般の人がALPS処理水についてよく知らない、又はわからないことが多いと思います。どのようなことをすれば、より多くの人が処理水や放射性物質に関する問題の全体像を正しく把握することにつながると思いますか?

7. 処理水放出に関する東京電力のこれまでの対応をどう評価されますか?外部に対してできる限りの説明責任は果たしたと思われますか?


●私の回答

 インタビュアーがトリリンガルであったため、インタビューは思ったよりもスムーズに進行した。質問1及び2が私へ取材依頼をした最大の理由と聞かされた。東京電力を退職しても、「原発は必要悪」などと福島で発言する。私とともに声を上げる人間がいないのが嘆かわしいと強調した。


 質問3については、世界中の原発からのトリチウム放出量と福島第一原発からのそれとの比較が頻繁に行われているが、事故でどれだけ放出したのかという論点がすっぽりと抜け落ちている。セシウム137だけで低く見積もって線量目標値に該当する液体廃棄物放出量の約7万年分は放出している。もう一滴たりとも放出してはならない状態にある。そして、汚染水投棄と廃炉・福島の復興とは何の関係もないと従来の主張を繰り返した。


 質問5には、「汚染水」を「ALPS処理水」とメディアが一斉に言い換えたことから始まった。テレビ・新聞・ラジオで「知ろう、考えよう処理水のこと」と大々的にCMを垂れ流した。そこには「海洋放出ありき」できれいな水であるとのイメージ付けばかりで、考える余地など与えない。しかも、「原発」や「福島」といったワードは一切出てこない。日本を訪れている中国の観光客にインタビューし「放出に不安はないとする人が多い」と報道する。これを渾然一体と言わないで何という。悪質なプロパガンダという他はないと答えた。


 質問6及び7に関しては、本来メディアは官製プロパガンダを行うのではなく、独自の科学的見地からの報道を行うべきである。説明責任どころか何も説明していない。東京電力に主体性はなく、福島県との約束を反故にしながら、政府決定を錦の御旗に掲げて海洋投棄を継続している実に許しがたい姿勢である。地域住民を舐めていると回答した。


 その他、「中国の日本産水産物禁輸措置についてどう思いますか」と訊かれた。「政争の具にするのはいかがなものかと思うが、心情的には理解できる」と回答した。また、「中日両国あるいは他国の専門家を集めて放出について再評価することについてはどう考えるか」との質問を3回もしたことが気になった。「もちろん行う価値はある」と答えたが。さらに、インタビュー中にインタビュアーが「福島第一原発事故は自然災害では」と発言したのには驚かされた。

… … …(記事全文4,520文字)
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