… … …(記事全文4,563文字)●新潟日報が特集記事を連載
年末を控え地元紙新潟日報が、柏崎刈羽原発について特集記事の連載を始めた。そのタイトルは「誰のための原発か~新潟から問う」と大層なものである。遅きに失した感はあるが、再稼働近し」と見込んでのことと推測する。同原発を巡る最近の動きに鑑みれば、タイムリーな企画であり、内容によっては今一つ盛り上がらない地元市民・村民、県民の意識を活性化させるという期待がある。
従来から指摘しているように、拉致問題に関して新潟日報は「情緒的報道」に徹していることから、私は何度となくその姿勢を批判してきた。ただし、それに比べて、柏崎刈羽原発についての報道は、「柏崎原発」と呼称すること以外、本質に迫る心意気を感じてきた。もちろん、新聞が「再稼働は不合理」と断定するとは考えていない。少しでも、問題点を明示して分かりやすい説明で県内に広く警鐘を鳴らしてくれるだけでも意味はある。
そう期待する一方で、特集記事の掲載が柏崎刈羽原発再稼働の「免罪符」とされる恐れもある。そこで、本稿では特集記事について概要を紹介しながら、私の見解を交える形で検証していきたい。
●第1回記事は一面
特集記事は、12月17日の一面を割いて始まった。見出しは「大雪時 動けるのか」。最初のテーマは、「負わされた宿命『住民避難』のいま」という事故時の避難問題である。ちょうど昨年の今ごろ、局地的な豪雪で国道8号における長時間にわたるクルマの「立ち往生」や停電が発生したことが記憶に新しいこと、住民にとって身近な事柄であることから頷ける設定だ。住民避難に関しては5回の掲載で、来年からは別のテーマで特集を継続していくと聞いている。
第1回のリードは次のとおりである。
「1969年に柏崎市と刈羽村の議会が原発誘致を決議して、54年が過ぎた。東京に拠点を置く東京電力が営業運転を始めた柏崎刈羽原発は現在、全7基が停止中だ。発電した電気の大部分を首都圏に送り続けた世界最大級の原発は、県民に何をもたらしたのだろう」
「自治体は原発設置に伴う税収、地域には交付金で公共施設も整備された光の部分がある一方、2002年のトラブル隠し以降。東電自らが県民の信頼を裏切る負の事態も相次いだ」
(筆者注:約40年の地域原発財源の総額は約3300億円、うち67%が固定資産税)
「福島第一原発事故、その後の柏崎刈羽原発でのテロ対策上の重大な不備…。問題が起きる度、県民は原発の議論を強いられてきた。一体誰のための原発なのか。新潟から原発を巡る疑問を考えていく。プロローグとして住民避難の在りようを問う」
【筆者見解】
まさに古くて新しい問題と言わざるを得ない。「発電した電力の大部分を首都圏に」について、地元首長は「国策に貢献するのは貴重なこと」と胸を張っている。他方、首都圏に暮らす人たちの多くがその事実を認知したのは、福島第一原発事故以降であるという実態がある。
「地域には交付金で公共施設も整備された光の部分」というが、「ハコモノ」を造り過ぎたばかりに、その管理費に窮し更なる原発を要求する、いわゆる「麻薬中毒」におかされている「影の部分」があることを忘れてはならない。
「問題が起きる度、県民は原発の議論を強いられてきた」。本格的な議論などあったのだろうか。その度に、数の理論に押し切られる形で結局原発は稼働し続けてきたのではないか。
いくつかの疑問があるが話しを進めよう。
●複合災害
⇒小千谷市民の体験
「柏崎市を含め豪雪地を抱える本県。複合災害に不安を感じる住民がいるのは、原発立地地域に限らない」とした上で、昨年の豪雪時における、柏崎刈羽原発から30キロメートル圏に全域が入る小千谷(おぢや)市民の体験を伝えている。
「実質1日半の停電は『記憶にない経験。本当に長く感じられた』」
「いまは、別の不安がある。柏崎刈羽原発の重大事故と豪雪が重なったらどうなるのか。福島第一原発事故の被害は、立地自治体にとどまらず広範囲に及んだ」
「30キロ圏内なら大丈夫とは思えない。『こんな雪になれば、まず逃げられない。食料やまきがなければ家にこもり続けることもできない。不安しかない』『結局、田舎の私たちがリスクを押し付けられている。憤りを感じる』」
⇒小千谷市防災安全課長の国への訴え
柏崎刈羽地域原子力防災協議会の作業部会において、道路管理者が除雪できなくなった場合、自衛隊などの実働組織が担うとの説明がなされたという。オブザーバーとして参加した小千谷市防災安全課長は、国土交通省の担当者に対し「雪国の実情を全く分かっていない」と声を荒らげたと紹介する。また、同課長が「豪雪時に自衛隊がたどり着けるのか。雪を甘く見ていないか」と疑問を呈し、国の担当者らに言いたいのは、「雪国の暮らしがどんなものか、実際に来て体験してみてほしい」ことだとする。
⇒自治体間の調整が不可欠
県内30市町村でつくる「原子力安全対策に関する研究会」実務担当者会議の場で「地震で道路が傷めば除雪すら難しい」「住民を屋内にとどめておくことができるのか」と悩む声が上がったと伝え、「複数の市町村にまたがる可能性がある住民避難への備えには自治体間の調整が不可欠で、単独で取り組める範囲は限られる」と指摘する。そして次の自治体担当者の話しを示す。
十日町市防災安全課副参事「『県と調整中』と言わざるを得ない部分が多く、市民に説明できる範囲は限られる」
長岡市原子力安全対策室長「自分の市だけ避難計画の実効性が上がればいいという問題ではない」
⇒調整役の県は
「各自治体が挙げる課題について広域調整の役割を担うのは県だ。その県は国の方針が第一とする」と指摘。これに対して、県原子力安全対策課長は、「豪雪時の対応などについて、『国の方で議論していく部分も多い。市町村の意見を踏まえ、国へ求めていくことになる』」と話しているという。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)