Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

「変わった人たち」だけが再稼働に反対する「変わった地域」

●「運転禁止命令」は年内に解除?

 柏崎刈羽原発では、2021年1月以降、テロ対策の不備が相次いで発覚し、原子力規制委員会(以下「規制委」)が同年4月、同原発での核燃料の移動を禁止する命令、すなわち「運転禁止命令」処分下した。


 あれから2年8カ月、原子力規制委員会は12月13日、東京電力の小早川智明社長を20日の定例会合に呼び、テロ対策の改善状況などについて聴取することを決めた。規制委の山中伸介委員長は記者会見で、「来週(20日)に社長の決意を確認し、委員と改めて(命令解除の是非を)議論する。おおよその最終判断が見えてくるだろう」と述べたという。これに先立ち、12月11日柏崎刈羽原発を訪れ、テロ対策の現状を視察した山中委員長は、「自分の目と耳で東電が自ら改善できる状態にあると判断した」と感想を述べていた。


 原子力規制庁は今月、テロ対策の是正が確認できたとする報告書案を公表。これを受け、規制委は年内にも命令解除の是非を判断する見通しである。


 こういった一連の動きについて、筋書き通りの茶番劇としか私の目には映らない。「東京電力の小早川社長から改善状況を聴取したうえで委員と改めて命令解除の議論をし、おおよその最終判断が見えてくるだろう」などと、もったいつけた物言いをしているが、命令解除の判断が下るのは火を見るよりも明らかである。もはや独立機関としての機能を失い、経済産業省資源エネルギー庁と一体化という「先祖返り」をした規制委が「運転禁止命令」を継続するとはとても考えられないからだ。


 山中委員長の現地視察に関しては、「セレモニー」でしかない。1日や2日の訪問で何が分かるというのか。「目と耳で東電が自ら改善できる状態にあると判断した」とするのであれば、何を見て、何を聞いてどういった基準で判断したのか説明してもらいたい。再三に亘って繰り返して心苦しいのだが、テロ対策の機器類などのハード面は「目と耳」で確認できるかも知れないが、社員の意識改革といったソフト面はそれらでは確認・判断は不可能である。ただ、検査回数や日数を増やしたと言われても意味のないことである。原子力規制庁がまとめる報告書案についても、ありきたりの表現が羅列されているものであると容易に想像が付く。


 旧稿でも指摘したように東京電力は、これまで数え切れないほどの失態・不正・不誠実・隠蔽・改竄・手抜き事件を引き起こしてきた。それが明るみになるたびに、言い訳・謝罪・反省をし、事実を検証して改善・再発防止・リスクマネジメント強化を諮って善処すると約束する、という所業を繰り返してきた。しかし、東京電力は、その約束をことごとく裏切り反故にしてきたのが現実である。そんな企業体質が2年やそこらで改善されるはずがないと考えるのが筋である。


●原発運転適格性判断も「結論ありき」

「運転禁止命令」処分後も不祥事・トラブルが後を絶たないたため、規制委は東京電力が原発を運転する適格性を並行して「再確認」することとなった。保安規定に追記された「安全最優先の事業運営」など、異例でしかない精神論からなる「七つの約束」が守られているかを調べる形で進められ、8月末には取り組み状況について東京電力からの聞き取りも行われた。


 12月6日の規制委定例会に提出された報告書案では、「七つの約束」に基づいて安全性向上の実績を上げているとし、約束に反した姿勢・行動は確認されなかったとされた。


 しかし、侵入検知設備が機能していなかった問題について、福島第一原発事故後のコストカット重視による監視態勢の変更が背景にあったとされ、東京電力が強行した「カイゼン活動」が安全面に及ぼした影響も調査したというが、対象にした工事はわずか10件のみ。それで「経済性を優先する議論や不適切な技術検討は確認されなかった」と判断された。


 また、無許可で内部資料を所外に持ち出したり紛失したり、無断でスマートフォンを防護管理区域に持ち込むなどの不祥事が今年も頻発したが、それらに対する言及はなかった。こうした不祥事が後を絶たない原因を根本的に検証することもされていなかった。


 さらに、薬物検査の問題に至っては、社員と警備員の意識の乖離について、反省に基づく取り組みの確認や継続的な監視による原因分析を社長が指示した点を評価する始末である。この薬物検査に関して、深刻な問題だと警鐘を鳴らす、ある刈羽村議(再稼働反対)が、刈羽村長に呼び止められ「終わったな。これからは共闘して行こう」と意外な言葉をかけられたという。日頃から「東電は終わった」と公言して憚らない村議は、村長も「心変わり」したのかと一瞬思ったそうだが、実は「この問題は、すでに終わったことだ」という意味だった。笑うに笑えない話である。この逸話が物語るのは、「薬物検査にはもう一切触れてはならない秘密なのだ」ということ。すなわち、原子力ムラ総掛かりの「臭い物に蓋をする」隠蔽工作なのである。


 付け加えれば、この10 数年間、東京電力のベテラン運転員はリタイアし、実機運転経験のない者がなんと3割を超える。マニュアルにない故障や事故への対応は、ベテランの知識と経験による応急対応が必要とされるのは言うまでもない。この問題も無視されている。


 これらから分かるとおり、報告書案は「結論ありき」でしかないとのそしりは免れないのである。

 ここで私の見解を強調しておきたい。福島第一原発からの汚染水海洋投棄により、東京電力という会社の本質、つまり安全性より経済性を重視する姿勢や地元との約束を簡単に反故にする傍若無人な態度が改めて浮き彫りになった。そんな会社に原発を運転する適格性などあるはずがない。


●残すは地元同意のみ 柏崎市長が示す「厳しい条件」

「柏崎刈羽原発再稼働の見通し」の報道で東京電力の株価が上昇した。地元メディアも再稼働を歓迎するような論調が目立った。他方、地元は平穏そのものである。やはり、おとなしくしていた方がわが身のためと考える市民・村民がほとんどである。「変わった人たち」だけが再稼働に反対する「変わった地域」なのである。

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