Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

私が遭った詐欺被害 実は私自身は詐欺行為に加担していた

●やまない特殊詐欺

 警察庁をはじめとする各省庁、地方自治体、金融機関、テレビ・ラジオ等あらゆるところで注意喚起をしているにもかかわらず、特殊詐欺被害が後を絶たない。2022年の全国の特殊詐欺による被害総額額は、2022年で約370億円にも達したという。新潟県も例外ではなく、件数は194、被害額は約5億2500万円に上った。ちなみに、都道府県別被害額の1位は東京都の約67億8000万円、最下位は福井県の約3000万円である。


 警察庁ホームページによれば、特殊詐欺は「オレオレ詐欺」「預貯金詐欺」「キャッシュカード詐欺盗」「架空料金請求詐欺」「還付金詐欺」「その他」に分類されている。数年前、本県で「銀行に預けているあなたのお金に偽札が混じっている可能性がある」と脅され、自身の口座から下した現金約600万円を騙し取られるという驚きの事件があった。


 年々新手の詐欺が出現しており、その手口は巧妙化している。例えば、詐欺を仕掛ける側が人数を増やして役割分担し、それぞれが異なった公的機関を装い電話をすることにより、被害者の「信頼」をより増すような手法が取られている。また、「サポート」詐欺と呼ばれるパソコン画面に「ウイルスに感染した」と虚偽の警告を出し、対策費名目でお金を騙し取る手法も横行している。被害者をパニック状態に陥れる点では、「架空料金請求詐欺」に類する。


 相手に信頼感を持たせて騙すか、パニック状態にして平常心を失わせて騙すかに大別されるようだが、特殊詐欺手口と対策・注意喚起とが、いたちごっこになっている感は否めない。個人的にもフィッシングメールや架空請求のショートメッセージが来るのは日常茶飯事である。世知辛い世の中になってしまったと悲観するのと同時に、お金持ちの高齢者が多いという驚きも隠せない気持ちである。


 かく言う私にも特殊詐欺に相当する被害に遭った苦い経験がある。本稿ではその件について述べたい。多くの人たちは「その手には乗らない」と推察するが、少しでも参考になれば幸いである。


●一本の「ワン切り電話」

 私は、東京電力を退職した後、東京都内の土木関係会社に再就職していた。事務所で執務中にスマートフォンに「ワン切り電話」があったことに気付いた。身に覚えのない番号だったが、もしや顧客からではと考え着信履歴にかけ直してしまった(そもそもこれが間違いの始まり)。2016年9月のことである。


 すると「折り返しのお電話ありがとうございます。こちら株式会社ライフでございます」と丁寧な返答があった。私が「ご用件は」と尋ねると「本日は、低金利での融資のご案内でございます」という融資話であった。ここで、「なぜ私の電話番号を知っているのか」と問うた上で断るのが自然であった。しかし、当時の私は、ある事情により、まとまったお金を必要としており、一部は融資を受けてでも用意しなければならない状況にあった。「ライフ」という名称にも馴染みがあり、焦っていたため渡りに船と「相談に乗ってくれませんか」と伝えてしまったのだ。「それでは、後ほど融資総合窓口の担当者から連絡させますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いいたします」と「ライフ」は応じた。


●担当者サトウから電話

 数時間後、「サトウ」と名乗る男から電話がかかってきた。「ライフ」の総合窓口担当だという。「先ほどはご連絡ありがとうございました。只今キャンペーン中で低金利のご融資が可能です。もしご希望でしたら、申し込み書類をご送付しますので、お名前、住所、勤務先、年収、借入額等をご記入の上ご返送ください」と慣れた口調でまくし立てた。「郵送だと時間かかりますよね。急ぎたいのですが」と要求すると「それではFAXでお送りしますので、記入後そのまま返送してください」と応えた(FAXというのは不審だと考えるべきだった)。私はその言葉を信じ言われるがままにした。「明日にはお返事できると思います」とサトウ。


 翌日、サトウから再び電話があり「概ね融資可能です。ただし私どもの審査部門がわずかながら信用情報が不足しているとの見解を示しております。蓮池様には、是非ご融資をさせていたきたいと考えております。対応策を考えておりますのでご安心ください」と伝えてきた。


●信用情報を上乗せしろ

 翌日から仕事上の研修で東京・王子にいた。「やはり与信審査に通らなかった」と諦め加減のところに、再度サトウから電話がかかってきた。丁寧な語り口でこう言った。

「いろいろ思案いたしました。もし蓮池様が望むならの話です。信用情報を上乗せするための方法をご提案いたします。あくまで蓮池様がおやりになる気持ちがあればですが」

 あまりに回りくどい物言いにイライラして「具体的に言ってください」と伝えると、

「蓮池様の信用情報を上乗せするため、スマホを割賦で購入していただく、というご提案です。割賦購入が可能と判断されれば、蓮池様の信用情報は上乗せされます。何度も申し上げ恐縮ですが、もしご希望でしたら」と彼は語った。(回りくどさも作戦で、「上乗せ」などあり得ないと気付くべきだった)


●auショップでスマホとタブレットを購入せよ

「やります。どうすればいいのですか」と訊くと、

「蓮池様がお持ちのスマホのキャリアはどちらですか」との応答。

「ドコモです」と答えると、

「それでは、auショップでスマホとタブレットを割賦で購入していただきたい。ただし、ショップにより割賦販売の審査の厳しさが異なります。私どもそのデータを持ち合わせておりますので、どの店が審査に通り易いのか分かります」と指示された。

… … …(記事全文4,938文字)
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