… … …(記事全文6,133文字)●東電社員「薬物検査陽性」問題 詳細は不明のまま
11月22日、「東京電力は、10月2日に柏崎刈羽原子力発電所において薬物検査で陽性を示した社員を誤って核防護区域に入域させたと発表」というニュースに絶句した。入域前の抜き打ち検査で陽性反応が出たものの、検査担当の同社社員が結果を陰性と見誤ったためで、当該の社員は同日中に警察の検査を受け、陰性だったと確認されたという。これについて、原子力規制委員会は22日の非公開会合の中で、重要な問題の深刻度を4区分で評価するうち、現段階では最も軽微な不備にあたると判断したとのこと。
「薬物検査」それも「抜き打ち」ということで、「すわっ!東電社員の間にも薬物汚染が蔓延しているのか」「クスリに依存しなければやっていられない仕事なのか」といった憶測が飛び交った。そんな疑問が出て当然のことだ。何を対象とした「薬物検査」なのか、またなぜそれが必要とされているのか、まったく明らかにされていないからだ。
これに関して東京電力は以下のとおり公表した。
■個人の信頼性確認結果の見誤りによる防護区域への一時的な入域について
・ 2023 年 10 月 2 日、柏崎刈羽原子力発電所で実施した「個人の信頼性確認の薬物抜き打ち検査※」において、検査結果が陽性反応を示した受検者(社員)に対し、社員見張り人 A が検査結果を陰性と見誤り、防護区域内に一時的に入域させた事案を確認した。
※当該検査は、規制要求に基づき、当社が薬物検査等も含めた信頼性確認を行い、入域の許可を得ている人に対して継続的な信頼性確保の観点から抜き取りで実施しているもの
・ 当該受検者は、検査の後、執務にあたるため、防護区域に入域したが、社員見張り人 Aが執務室に持ち帰った検査結果を、社員見張り人 B が確認したところ陽性を示していたことから、速やかに関係者に報告した。報告を受けた核物質防護管理者は直ちに当該受検者を防護区域内から退域させた後、治安機関へ引き渡した。なお、当該受検者は、聞き取り調査を含め、警備に対して協力的に対応していた。
・ その後の治安機関による検査の結果、陰性であることを確認したことから、核物質防護管理者は受検者の再入域を許可した。
・ なお、マニュアルに則れば、治安機関ではなく医療機関の検査結果にて防護区域内への再入域の許可判断をすべきであったことから、防護区域入域資格を取り消した。
・ 本事案は、社員見張り人への薬物検査に関する指導・教育が不十分であったことから社員見張り人 A の薬物検査の判定に関する理解が不足していたことが原因。
・ 対策として、検査の判定結果を見誤らないよう教育を実施した。今後も定期的に教育を実施していく。また、薬物検査や再入域の判断に関するマニュアルや手順書等についても、より分かりやすくなるよう、記載を明確化した。
何が起きたのかと、お決まりの再教育・マニュアルや手順書等の見直しは理解できた。しかし、上述の疑問は払拭されないままである。「規制要求による薬物検査等も含めた信頼性確認」とあるので、どうやら原子力規制委員会からの要求らしい。関係者に聞くと2018年から行われているとのことだが、依然としてどんな薬物を対象としているのか、検査を始めたきっかけは何だったのか、国内の全原発に適用されているのか等は釈然としない。これ以上の情報は「核防護上の観点」から公表できないとのこと。「可視化」が重要と自ら宣言しているにもかかわらず。薬物中毒者が従事していたのかと邪推もしたくなる。何とも歯切れの悪い一件だ。
●テロ対策追加検査 12月4日にも終了
そんな中、柏崎刈羽原発でテロ対策上の重大な不備が相次いだ問題で、原子力規制委員会は12月4日の会合において検査を終了する、との報道があった。原子力規制庁の現地確認や東京電力の事業者としての適格性再確認報告を経て、事実上の運転禁止命令の解除を判断するという。
シナリオ通りの展開と言える。だが、再三述べてきたとおり、テロ対策不備の一つの要因である企業体質の改善や適格性の判断をどのような基準で行うのか、これも釈然としない。判断プロセスも含めた詳細な情報公開が必要であるのは言うまでもない。
●「池内特別検証報告書」の公表
「薬物検査」問題報道のあった同日、「池内特別検証報告書」が公表された。福島第一原発事故を巡る新潟県独自の「三つの検証」が総括される前に消滅してしまった検証総括委員会の委員長だった池内了氏(名古屋大学名誉教授)が独自に取りまとめたものだ。
報告書は、独自の報告書を公表する理由、検証委員長解任までの経緯から始まる。「県の安易な行政手法を拒否して委員長を解任された。だから、その経緯を記録しておくことは地方政治のありようを考える上で意味がある」。
池内氏に代わって県が取りまとめた総括報告書については、「不十分」と批判した。それもそのはずで、県が「(各検証結果に)相反するものや矛盾及び齟齬はなかった」と総括した報告書がわずか87ページであるのに対し、「不十分」な点を述べた「池内特別検証報告書」が101ページから成ることからも明らかである。
また、池内氏は「県民の意向より中央へ追随していく姿勢は新潟県のみではなく、日本全国で共通しているのだろう。明治以来の中央集権の意識が強い日本であるからだ。特に原発に関しては、国が利益誘導を通じて主導してきたこともあって、地方は国家の方針に無条件に追随する図式が明瞭と言える」と構造的な問題にも踏み込んでいるが、メディアが報じることはない。こういった図式に則り、立地自治体の柏崎市長、刈羽村長は揃って「国策に貢献するのは重要なことだ」と言い換えていることは、旧稿でも述べた。
⇒技術委員会の「検証報告書」について
「福島第一原発事故の検証のみでしかない。柏崎刈羽原発において具体的な対策が施されているかどうかを検討しなければ検証の意味がない」
「重要設備の損傷の原因が地震の揺れか津波か両論併記されている。こうした課題について具体的な対策が施されているか検討していない」
報道はこの程度だが、他にも私が共感する内容がほとんどだ。一例として以下を挙げる。
「この10 数年間、東電は原発を実際に動かしておらず、運転経験豊かな技術員が極めて少なくなっている。特に当直長は、いざ事故が発生した時には、状況を正確に把握し、的確に対応し、慌てずに指示を出す、という責任ある行動が求められる。故障や事故への対応はマニュアルにないことが多いから、知識と経験による応急対応が不可欠なのである。しかし、そのようなベテランの技術員が、果たして東電にどれほどいるのであろうか?」
⇒避難委員会からの「検証報告書」
「避難委が示した456点の課題・論点は重要度や緊急度を抜きに並列的に示されている。実際の避難行動に対して実効性のある提言とは言い難い」
「どれだけの人が読み、実際の避難行動の策定に生かすことになるのか」
「(大雪時の避難の難しさについて)冬季3カ月の間は稼働させないというような案を検討してもよかったのではないか」
「健康、生活両分科会と合同で避難と生活及び健康の維持について検討すべきだった」
「被曝がない避難が可能なのか、被曝を最小限にする避難行動などについて議論する場が必要だった」
⇒健康分科会からの「検証報告書」
「甲状腺がんが事故と無関係と決めつけず、地道な検証作業を続けたことを評価したい」
「メンタルヘルスに関わる議論が不十分である」
以上が報道ベースの「池内特別検証報告書」の概要である。今後は報告書を踏まえたシンポジウムを県内で開くことにしている。また、「報告書はインターネット上で公開されている」とするメディアが多いものの、リンク先のURLを明らかにしているところはない。やや政治色のあるサイトだからだろう。そこで、私が以下にそのURLを示しておきたい。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)