… … …(記事全文5,014文字)●福島第一の敷地は沢ごと掘削された
福島第一原発の敷地は、着工前の1967年当時、海抜35メートルの台地で地下水位は高く大量の地下水を含んでいた。また、台地には何本もの沢があり、高い場所から水が滝のように海へ落ちていた。これと同じ光景は、福島県の浜通り地方で現在も目にすることができる。
この台地を25メートル掘削し、岩盤の上に1~4号機が設置された。地下水は25メートルの高低差により加速され、沢ごと掘削したことと相俟って、それこそ滝のように各建屋の方へ押し寄せてくる。その量は、1日800トンを超える。これを放置しておけば、建屋内に地下水が浸入し機器が冠水してしまう。そこで、立て坑(サブドレンピット)を60本以上掘り、ポンプで地下水を汲み上げるあげることで、水位の上昇を抑えていた。しかし、事故により立て坑が機能不全となった。現在の汚染水の源はここにある。
●地下ダム設置要請を拒んだ東電
事故後当初は、地下水800トンのうち半分の400トンは建屋地下に浸入、溶融燃料を冷却した高濃度汚染水と混じり、汚染水量を増やしていった。残りの400トンは防波堤周辺から海へ抜けていた。その際、トレンチ(溝)に貯まっている高濃度汚染水と混じり港湾内に流出した。
数年後、当時の民主党政権から地下水の建屋浸入を防止するための遮水壁(地下ダム)の設置を迫られた東京電力は、1000億円とも2000億円とも言われる建設費用の支出を渋り設置することはなかった。それは、支出により債務増と受け止められれば株価が暴落し、株主総会を乗り切れないという身勝手な理由だった。東京電力はあまりにも、汚染水に関して楽観的で見通しが甘かったと言わざるを得ない。いや、今となっては能天気と言おう。
●凍土壁は失敗だった
その後、重い腰をようやく上げた政府が打ち出したのは、約500億円をかけ凍土壁を設置するという策だった。凍土壁は、例えば東京湾トンネル工事で急な漏水があった場合に一時的な止水に用いる応急的な技術であり、恒久的な対策にはならないと、私は再三指摘した。
結局、凍土壁は設置された。地下水の浸入量・汚染水の発生量は減少したものの、地下水が完全に遮断され汚染水がこれ以上増えないという段階には達していない。やはり、凍土壁の設置は失敗だったということである。建設費そして年間約10億円とされる凍結のための電気代が総額でどれほどかかったのか公表されていない。それだけの税金が投入され、無駄に終わってしまったのだ。施工した大成建設が大儲けしただけのことである。
●抜本的対策は地下水浸入を完全に止めること
今もなお汚染水は発生し増え続けている。そんな状況で海洋投棄が並行して行われていることが、私には納得がいかない。まずやるべきことは、建屋へ浸入する地下水を完全に止めるという抜本的対策の実行だ。そういう段階になれば汚染水の総量が確定し、初めて処分方法の議論の場ができると私は考えている。
現在のように、海洋投棄される汚染水や放射性物質の総量、投棄に要する期間が明らかにされないまま、なし崩しで強行されるのは異常事態と言っても差し支えない。海洋投棄はこの先、40年~50年継続するとされているが、抜本的対策を取らない限り永遠に続くことになりかねない。
「3回目の処理水放出完了。今年度は計3万1200トンを放出。貯蔵量の約2%、タンク23基分に相当」と報道されている。しかし、その間新たにどれだけの汚染水が発生するのかについては触れようとしない。
●福島ではケチる 柏崎刈羽では湯水の如く
汚染水の処分方法として数種類の選択肢が挙げられ検討の末、海洋投棄が決定された。しかし、これは最も「安上がり」な海洋投棄ありきで検討というほどのものではない。他方、東京電力は柏崎刈羽原発では再稼働のため湯水の如くお金を投入する(1兆数千億円)。同じ会社なのかと見紛うほどである。
投棄設備だけですでに約450億円、全体に費用は約1300億円かかっていると言われている。「風評被害」による漁業補償の基金800億円が計上されているが、中国の禁輸措置に対する補償も加えれば総額は数千億円単位になる可能性がある。
これだけの費用をかけるのであれば、選択肢になかった汚染水を大型タンクに保管する方策を取ることも可能だったはずだ。
●凄まじいプロパガンダ
日本政府、東京電力、大手メディアが一体となって「ALPS処理水の海洋放出は安全」とのプロパガンダを推し進めた。それは、「汚染水」を「処理水」と一斉に言い替えたことに端を発する。処理前のものに至っては「処理途上水」だそうだ。呆気に取られるばかりで、ここまでくるともう「お見事」としか言いようがない。残留しているトリチウム濃度は、基準値を超えており、「汚染水」そのものである。それを、「『海水』で基準値以下に希釈して放出する」にも違和感を覚える。純水で何千倍にまで希釈するのならまだしも、海水で希釈する意味が分からない。それも、港湾内はもちろん外部近傍の海水は未だ浄化されていないのが現状も忘れてはならない。
海洋投棄開始後も大手メディアはその姿勢を崩さない。一例は、中国による日本産水産物の輸入禁止措置についてである。
テレビは日本を訪問している中国人観光客に盛んにインタビューをし、その模様を放送していた。東京・銀座の飲食店で海産物を食べている中国人に対し「処理水放出の影響についてどう感じるか」と質問する。そして、「気にしない」とする人が多いとし、中国でテレビ(国営放送)を観ている人は「放出に反対」し、インターネット等で情報を得ている人は「放出を気にしない」傾向があると結論付ける。日本国内とは全く逆の現象だと私は考えるのだが。つまり、中国が政治問題化していると視聴者に刷り込もうとする。こういった報道は意味をなさないし、作為を感じる。なぜ、日本の人たちにインタビューしないのだろうか。
●廃炉作業の進展と復興には欠かせない?
「敷地内にもう汚染水タンクの設置場所がない。これ以上増やしては廃炉作業の妨げになる」とか「福島の復興には欠かすことができない」。こう政府や東京電力は汚染水海洋投棄の必要性を強調する。果たして本当だろうか。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)