Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

横田めぐみさんが拉致された日前後に催される「年中行事」

 旧稿で触れたとおり、1977年11月15日北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(59)の事件から46年となるに合わせて「県民大集会」「磯崎敦仁慶応義塾大学教授と蓮池薫の対談」等のイベントが開催された。そして、12月の国が主催する「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」へと連なり、例年通り1年が終わる。

 毎年、内容は何の変哲もないため書き記すことにあまり価値を見出せないが、敢えてそれらの概要を紹介したい。


●「忘れるな拉致 県民集会」

 11月11日(土)、新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)コンサートホールにおいて「忘れるな拉致 県民集会」(新潟日報社・新潟県・新潟市主催)が開催された。登壇者の発言の概要は以下のとおりである。

・横田早紀江さん(87)は、2019年から体調を考慮してビデオメッセージと川崎市の自宅からのオンライン参加に切り替えており、参加者約650人を前に訴えた。

「いつも同じような発言をしており、何も動かない状態でここまできています。本当に信じられないような人生でした」

「これ以上何をしたらいいのでしょうか。まだ足りないのでしょうか」

「一回倒れたときはこれで終わりなのかなというところまで来たのですが、自分で息を吹き返して、日本の皆さんが一つになって力を合わせて救出していただきたいと願っています」

・横田拓也さん(55)家族会代表

「いつまでも13歳のめぐみちゃんの顔しか出てこず、思い出の積み増しができないのは残酷です」

「私の母・早紀江の夢は、姉と、誰もいないところで空に浮かぶ雲をみながらやっと自由になったねという時間を持ちたい。こんな当たり前のことを願っているんです。私は絶対諦めるわけにはいきません。絶対に負けません」

「もし、拉致がなければどれだけ充実した人生があったでしょうか。普通の人生を一瞬の暴力で奪われました。絶対に許せません」

「誰かの問題ではなく、私たち一人ひとりに課せられた問題として考えていただきたい。政府には全力かつ早急に解決していただきたい」

・横田哲也さん(55)

「24時間監視され、自由のない環境から1日も早く解放してあげたい」

「姉がどうなっているか、毎日思っています。私がこうだから母はそれ以上。岸田文雄首相には1日も早く金正恩氏と直接交渉していただきたい」

・曽我ひとみさん(64)

「『親孝行したい時に親はなし』という言葉があるが、もう一度親孝行をさせてください」

・工藤彰三内閣府副大臣

「しっかりと働きかけ様々な情報をとり、来年には皆様が集まらなくて『おかえりなさい』と言えるようご祈念申し上げる。しっかり頑張ってまいります。」

「ご家族のもとに一刻も早く取り戻すことをしっかりとお約束する」

 なお、工藤副大臣は県民集会に先立ち、毎年お決まりのめぐみさん拉致現場を視察した。そしてこう語ったという。

「拉致問題を解明できないことに、忸怩たる思いがある。早急に解決に向け取り組んで行きたい」

「拉致被害者の家族も高齢になっている。時間的制約のあるこの問題は、ひと時もゆるがせにできない人道問題だ」

⇒筆者所感

 毎年同じことの反復で、「いったいいつまでやるつもりなのか」という気持ちが充満している。年中行事として定着し、形骸化していると言ってもいいだろう。今回も気になる言動があったので列挙する。

・横田早紀江さん

 集会前の毎日新聞のインタビューで「助けてあげられなかったことへの慚愧(ざんき)がたくさんある」と述べていた。ここで「助けてあげる」のはあくまで日本政府であり、「慚愧」の必要は全くないと考える。

 集会では、「日本の皆さんが一つになって力を合わせて救出」と語っている。「一つにならなければ」政府は動かないのだろうか。旧稿でも記したが大きな疑問を抱く。

・家族会

「誰かの問題ではなく、私たち一人ひとりに課せられた問題として考えて」と横田代表は語っているが、少し過言ではないかとの感覚は否めない。上述した「一つになる」と同義だからだ。集会に参加したある教員のように「二度と同じことが起こらないよう、子どもたちには人権意識が身に付く指導をしていきたい」といった感想を述べる人がいることも忘れて欲しくない。

 また、横田代表が集会終了後に残した以下のコメントだ。

「言い過ぎを承知で、誤解を恐れずに言うと、結果が出なければ点数は0点、全員を帰さなければ100点とは言えない。日本政府は全力をかけて、国力をかけて、1人残さず、全拉致被害者を帰すように私たちは求めていきたい」

「結果が出なければ0点」。まさにそのとおりである。しかし、なぜ今それを言うのか。違和感しかない。であれば、安倍晋三第一次政権以降の歴代政権はすべて0点である。安倍政権時代、家族会は安倍元首相をこぞって称賛するなど蜜月関係にあったし、昨年は「国葬」にも参加していたではないか、と問いたい。

 全拉致被害者を帰すことを求めるのであれば、「全員一括即時帰国」、「親世代が存命中に実現するなら、日本政府が人道支援することに反対しない」という非現実的かつ非常識な活動方針を速やかに転換すべきである。

・工藤副大臣

 いったい今まで何人の政治家や専門家等がめぐみさん拉致現場を視察したのだろうか。46年経過した現場を見て何が分かるというのか。慎むべきパフォーマンスに過ぎない。

「ご家族のもとに一刻も早く取り戻すことをしっかりとお約束する」。できもしない約束を軽々しくしないでもらいたい。根拠が全くない。無責任にも程がある。


●日本政府の反応

 11月15日を迎えて、岸田首相は次のとおりコメントした。

「多くの拉致被害者が北朝鮮に取り残されているのは痛恨の極みで、大変申し訳なく思う」

 また、10月23日の臨時国会所信表明演説では、こうも述べている。

「首脳会談を実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を進める。日朝間の実りある関係を築くため、大局観に基づき判断する」

「直轄」や「大局観」とこれまでの政権とは異なる言葉を加えて使用し、思わせぶりの態度を示しているように聞こえる。しかし、これは本年に入りずっと言い続けていることで、実態が伴っていないのは火を見るよりも明らかである。単なる「言葉遊び」と言っても過言ではない。その証拠に以下のとおり釘を差す。

「北朝鮮との交渉については事柄の性格上、具体的に申し上げるのは控える」

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