Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

国の拉致問題啓発活動の対象がついに小学生にまで及ぶ

 今年も、新潟県内では拉致問題をテーマにしたイベント開催の季節がやって来た。横田めぐみさんが拉致されたのが、11月15日だからである。イベントで「気付き」を得て何かできることはないのかと自問自答するが、年が変わり正月気分になればそんな気持ちはリセットされる。大部分の人たちがそうではないだろうか。それが、21年間も繰り返されている。イベントが「恒例」となってしまったのだ。

 

 

●小学生がオンライン会議

 10月31日、北朝鮮による拉致被害者が在住する新潟県佐渡市、柏崎市、福井県小浜市の小学生によるオンライン会議が開催された、と新潟日報が報じていた。拉致被害者である曽我ひとみさん(64)、地村保志さん(68)、蓮池薫(66)の3人も参加した。子どもたちは解決に向けて小学生にもできることを考え、話し合ったという。

 

 佐渡市の小学生たち35人は、拉致問題を多くの人に知ってもらうため、ポスターやチラシを作り、署名活動にも参加・協力していくと宣言。柏崎市の小学生29人は、蓮池薫の講演を聞き、自ら署名活動をすることなどを決めたという。会議の最後に被害者3人が児童たちへメッセージを伝えたとのこと。

曽我さん

「署名などに参加するという、その気持ちがうれしい。自分ごととして続けて欲しい」

蓮池

「どうすれば解決できるかということまで踏み込んでくれた。成功させ、全国に広がって欲しい」

 

 頼もしい小学生たちだと、読者の中には称賛する人もいるだろう。だが、それはあまりにも情緒的で大きな勘違いと言わざるを得ない。小学生が拉致問題について学ぶのを否定することはしない。歴史上稀に見る大きな事件であること、一方的に反北朝鮮感情を醸成するものではないことを条件に、である。

 

 ついに、小学生にまで拉致問題を託してしまうのか。大人たちは、いったい何をしているのか。そんな悠長なことをしている場合なのかというのが、私の率直な感想である。

 

●中学校でも講演

 ここ数年、弟の薫が県内の中学校で講演をすることが多くなっている。10月31日の県内中学校での講演の様子を新潟日報が報じた。

 

 弟は、以下のような内容を語ったという。

「拉致問題はまさに今の問題。今このタイミングで返してもらうために、考えを一つにして欲しい」

「親と子が会ってこそ問題が解決する」

「若い人たちには関心を持って、周辺の人と話をして欲しい。それが北朝鮮にはこたえる」

 

 講演を聞いた3年生の一人は感想をこう述べたとのこと。

「拉致問題についてニュースで見たことはあったが、自分で調べたことはなかった。私たちが関心を持ち、周りに伝えていきたい」

 

「関心を持ち、周りに伝えいく」。無駄なこととは思わない。しかし、中学生のような次世代に託すような性格の問題ではないと再三述べてきた。世間の関心が薄れているのは間違いないが、「それこそ問題が進展しない原因だ」と国が強調するのは責任転嫁でしかない。関心が高まれば事態が好転する保証などない。

 

 よく「風化させてはならない」とされる。「風化」という言葉を私は好まない。なぜならば、生身の人間の問題であるのに、どうしても無機質なイメージが付きまとうからである。関心が薄れていくのは今の状況では止むを得ない。何しろ国が無為無策であり、むしろそれを助長していると考えるべきだろう。

 

 それでも、国や県は「人権教育研究指定校における人権学習に尽力」をお題目に、その一環として拉致問題を取り上げ、弟を駆り出している。人権学習も結構だが、それを言うならまず拉致被害者の人権を確保しろと強調したい。弟も十分に分かっているはずで、私は被害者に救出運動をさせるなと何度も指摘してきた。ただ、依頼があれば受けざるを得ないのが現状である。

 

●拉致問題に関する「中学生サミット」

 また、本年8月10日には、国(拉致問題対策本部)主催で拉致問題に関する「中学生サミット」なる不可解なイベントが開催された。対策本部によれば、以下のとおりである。

「若年層に対する拉致問題の広報・啓発を強化する取組の一環として、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターにおいて、拉致問題に関する中学生サミットを開催しました」

 「当日は、台風の影響により一部やむなく欠席された方もいたものの、全国の都道府県及び政令指定都市教育委員会から推薦された約60名の中学生が東京に集まり、拉致問題について学び、拉致問題を同世代、家族、地域の人に自分事として考えてもらうためにはどうしたらよいか、グループ協議、全体交流などの活動を通して議論を行いました」

 「今後、参加した中学生が、自ら拉致問題を主体的に考え、拉致問題の啓発に係る取組を支えるリーダーになるとともに、全国各地での多様な取組が一層促進されることが期待されます」

 

 冒頭であいさつに立った松野内閣官房長官兼拉致問題担当大臣はこう述べた。

「皆さんが、日本で自由な生活をする一方で、拉致され、家族とも会えず、今なお助けが来ることを待っている人がいること。また必死に再会のための活動を続ける、ご家族や支援者がいることを忘れないでください」

 「日本国民が心を一つにして強い意思を示すことが力強い後押しとなる。特に若い世代に理解を深めてもらうことはとても重要だ」

 

「日本国民が心を一つにして」とは、実に気色悪い発言である。「戦時中か」と思わず突っ込みを入れたくなる。国民が心を一つにし、若い世代が理解を深めなければ国は動けないのか。実に情けなく疑問が深まるばかりである。

 

… … …(記事全文4,592文字)
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