… … …(記事全文4,015文字)●コシヒカリの1等米比率わずか1.6%
地元メディアでは以下の問題が盛んに取り沙汰されている。
「JA全農新潟県本部が今年の県産コシヒカリの1等米比率が1.6%(9月27現在)であることを明らかにしたという。今夏の猛暑や渇水の影響によりコシヒカリの品質が大きく低下しており、1.6%という数字は過去最低となる見通しである」
例年であれば、コシヒカリの1等米比率は80%前後であることから、大幅な低下であることは一目瞭然である。これにより、単価が下がり農家が減収になるのは自明で悲鳴が聞こえてくるのは無理もない。中には、3等米と判定され「50年間農業しているが、初めてだ」と落胆する農家もある。大規模農家であれば、何とか凌げるのかもしれないが、中小農家にとっては死活問題となる。
ただし、JA全農県本部や県によれば、「等級により食味は変わらない」という。
●米の等級とは
「食味は変わらない」のに米が等級で格付けされるのはなぜなのか。それは、全国で品質が異なる農作物が公正に安心して取引されるようにするためだという。公的機関が農産物検査法第3条に定められる基準により、玄米を検査し等級を格付けする。
重量検査、水分検査、外観検査が行われるが、具体的な基準は以下のとおりである。
・整粒割合 45%~75%
・水分含有量 15%以下
・被害粒、死米、着色粒、異種穀粒・異物混入の合計 15%~30%以下
(注)
整粒:粒がきれいに整った形をしていること
着色粒:粒面の全部または一部が着色した粒及び赤米のこと
死米:充実していない粉状質の粒のこと
異種穀粒:もみや麦のこと
異物:穀粒を除いた他のもののこと。
これらの基準により1~3等米が判定される。基準に当てはまらないものは「規格外」とされる。ちなみに1等米は、整粒割合が70%以上、水分含有量が15%、被害粒、死米、着色粒、異種穀粒・異物混入の合計が15%以下と判定されたものである。
この米の等級は卸売流通業者の評価基準になり、等級が高いものが多いほど高評価を得ることができ、農家の出荷価格も高くなる。
●等級は「見てくれ」 小売では確認できない
検査員が、主に目視による外観で判断して等級が評価され、そこには食味という要素は含まれていないのが大きな特徴である。つまり米の「見てくれ」の評価であって、食味の評価ではないということだ。等級の格付けの目的は上述したが、もう一つの理由として、小売り段階でJAS法(日本農林規格等に関する法律)に基づく米の生産地や品種名の表示の根拠になることがある。
しかし、食品表示法に基づく食品表示基準では、米の産地、品種、生産年、内容量、精米時期、販売者の記載は義務付けられているが、等級は表示義務がない。そのため、消費者が米を購入する際に1等米を選ぼうと思っても、袋に等級が記載されていないことが多い。
ここで、大きな疑問が湧く。まず、「見てくれ」で米を選ぶ人がどれだけいるのだろうか。私は、都会の高級料理店や高級寿司屋くらいではないかと思う。また、米を買い求める場合、選択の基準になるのは産地、ブランド、価格、口コミなど人それぞれであろう。等級が指標にならない実態から、格付けの必要性は感じられない。消費者の立場から考えるとそういうことになるのではないか。
●食味ランキング
それでは、米の食味を重視する消費者はどう選べばいいのか。「一般財団法人日本穀物検定協会」が毎年発表している「米の食味ランキング」が参考になるかもしれない。専門パネル(食味評価エキスパートパネル)20名が、供試品と同協会が定めた基準米について、外観、香り、味、粘り、硬さ、総合評価の6項目に関して比較評価する相対法により行われる。具体的には、炊飯した白米を試食して評価する「官能試験」に基づき、1971年産米から毎年全国規模の産地品種について実施されている。
食味試験のランクは、複数産地のコシヒカリのブレンド米を基準米とし、これと試験対象産地品種を比較して、「特A」(特に良好)、「A」(良好)、「A’」(おおむね同等)、「B」(やや劣る)、「B’」(劣る)として評価、結果を産地ごとの品種や銘柄について「食味ランキング」として公表される。
●昨年のランキング
2022年は、各都道府県から選出のあった152産地品種について食味試験が行われた結果、「特A」が40産地品種、「A」が91産地品種、「A’」が21産地品種、B及びB’は該当なし、となった。「特A」ランクの品種別にみた産地品種数は多いものから「コシヒカリ」8(福島県・会津、茨城県・県央及び県南、新潟県・上越及び魚沼、岐阜県・美濃及び飛騨、三重県・伊賀)、「にこまる」6(静岡県・西部、岡山県・県南、愛媛県、高知県・県央及び県西、長崎県)、「つや姫」4(宮城県、山形県・村山及び置賜〈おきたま〉)、大分県)、「きぬむすめ」3(鳥取県、島根県、岡山県)などとなっている。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)