Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

原発再稼働のためなら手段を選ばない

●東電に「適格性」はあるか?

「東京電力に原発を再稼働する適格性はあるか」という「易問かつ愚問」を他人事のように、ローカルニュースが三日にあげず報じている。原子力規制委員会が「適格性」の再確認をするため運転禁止中である柏崎刈羽原発へ現地調査に入ったことに関するニュースである。

 

「答え」は「あるはずがない」なのは言うまでもない。福島で「約束」を反故にし、多くの人たちの反対には耳を貸さず「一定の理解を得た」と嘯き、汚染水海洋廃棄という愚行に走った東京電力である。そんな会社に対し「適格性」などという言葉を使うのさえ片腹痛い。

 

 しかしながら、経済産業省、原子力規制委員会や地元の新潟県、柏崎市及び刈羽村は、再稼働のためなら何でもやると言わんばかりに猛進している。理解に苦しむが本稿では現場の動向を中心に紹介したい。

 

●経済産業省

 西村康稔経済産業大臣は、9月12日、閣議後の記者会見で以下のとおり述べた。

「原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、その判断を当然私どもとして尊重して、その上で、国が前面に立って地元の理解を得ながら再稼働を進めるというのが政府の方針です」

「東京電力においては、まずはこれまでのそうした適格性に関する厳しい指摘も真摯に受け止めていただいて、核物質防護の再構築はもちろんのこと、組織改革、それを着実に遂行すること、そして不断の安全性の行動への取組、そうしたものを通じて地域からの信頼回復に全力を挙げてもらいたいと考えております」

「その上で、安全確保を大前提として、そして経産省としても柏崎刈羽原子力発電所の必要性や意義について、新潟県などの立地自治体の関係者の理解、協力を得られるよう丁寧に説明をしていきたいと考えています」

 

 いつか聞いたようなことばかりで、何も響いては来ない。とりわけ「地元の理解を得る」「丁寧に説明する」の常套句は聞き飽きたし、今では地元住民を愚弄し、切り捨てる文言だと私は解釈している。さらに、「国が前面に立って」とは地元の首長や県議会、経済界の有力者に対して重圧を加えて行くという意味なのだろう。

 

●原子力規制委員会

 9月11日、原子力規制委員会は、福島第一原発事故を起こした東京電力に原発を動かす「適格性」があるかの再確認の一環として、現地検査を開始した。検査には約3カ月を要するとされており、13日まで同原発で行った後、本社や柏崎市内の事務所でも実施するとされる。なお、この適格性の再確認は、2021年運転禁止命令の要因となった数多の重大なテロ対策不備を踏まえて行われるものである。

 

 もともと原子力規制委員会は、

 ・安全最優先の経営

 ・自主的な安全性の向上

 ・福島第一の廃炉への主体的な取り組み

などの7項目を条件(「七つの約束」)として「保安規定」にも明記させたうえで、福島第一原発事故を起こした東京電力に再び原発を動かす適格性があると認め、柏崎刈羽原発6、7号機の安全対策の基本方針を許可した。2017年12月のことである。

 

 主として技術的な運転ルールを定める「保安規定」に、上述のような精神論を明記させるのは異例というより異常だと旧稿で指摘した。例えて言えば、小学校の「廊下は走らない」「給食は残さない」といった「今日の目標」レベルのものだとも述べた。

 

 したがって、私には今回の検査が「ルールを守らない子ども」がどれだけ成長したか「先生」のような人たちが検査しているように見えて仕方ない。そして、どのような基準でそれを判断するのかは明確にはされていない。つまり、シナリオ通りの出来レースであり、単に時間稼ぎをしているに過ぎない。例えば「安全最優先の経営」、平たく言えば「安全のためにお金をケチることはしない」、これ一つ取り上げてみても、福島では東京電力は正反対のことを行っているではないか。すでに「適格性」などないのだ。

 

 これに関連して、自民党県連が柏崎刈羽原子力規制事務所を訪れ、厳格な確認を求める意見書を提出したという。意見書は、2021年に相次いで発覚したテロ対策の不備の後も問題が絶えない東京電力に対して「県民の信頼は大きく損なわれている」としたうえで、「適格性を認めた2017年の判断を単になぞるのではなく、現状を踏まえた評価を求める」ものだという。再稼働を大前提としている自民党県連が、原子力規制庁に要望するとは、これ以上のパフォーマンスはないのではないだろうか。茶番に付き合っているとしか言いようがない。

 

●新潟県

⇒県知事の暴挙

 新潟県が独自に行っていた「三つの検証」は、花角英世新潟県知事によって骨抜きにされてしまった。すなわち、総括委員会の委員長の任期切れを放置、再任することなく、事実上の解任を行い、専門家でない県の職員が総括することを決めたのだ。

 

 9月13日、県が取りまとめた総括報告書を公表した。報告書では「(各委員会の報告書に)矛盾および齟齬はなかった」とされているが、この報告書の意味を見出すことができない。また、会見に臨んだ花角知事に対して、総括委員会の代わりに県が取りまとめることに疑問を持ち、深く追及する記者がいなかったことには、大きな憤りを禁じ得ない。

 

⇒前総括委員長の発言

 一方で、前総括委員長の池内了氏は、9月17日に会見を開き次のとおり語った。

「書かれていることの簡略版を示すだけでは総括書にはならない」

「柏崎刈羽原発に対して何ら言及しない検証総括はありえない」

「巧妙に福島事故の悲惨さを弱めて、避難の困難さや被ばくへの悪影響を軽く見せるようなバイアスが認められる」

 

 まったくそのとおりである。池内前委員長は、年内にも独自の総括報告書を公表する方針であるとのことだ。これには期待するが、どれだけの県民が注目し、内容を理解するかが問われる。

 

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