… … …(記事全文4,823文字)●暑すぎる夏
9月に入ったというのに、酷暑が続いている。当地では、この時期、朝夕は凌ぎやすくなり就寝時のエアコンも不要になるのが通常である。しかし、9月になっても暑さは衰える様子はなく、「猛暑日」予報が出されている。明らかに異常気象で、気候変動の影響であるとの指摘がある。私が幼いころは、エアコン(当時はクーラー)などはなかった。日除け用のすだれや打ち水、扇風機と部屋の中を通り抜けていく自然の風の流れで十分に過ごせた。
農作物への影響も深刻で、野菜や果物の立ち枯れや生育不良が報じられ、本県の特産品コメについても、等級の低下といった品質問題が懸念されている。中には河口近くの田んぼに海水が逆流し、せっかく育った稲が全滅した場所もある。被害を受けた農地の総面積は、約820ヘクタールに及ぶという。
海水浴場はすでに閉鎖されている。コロナ禍の影響で海の家(当地では「浜茶屋」と呼ぶ)の数が著しく減ったのには驚き、残念だったが、その海の家も暑すぎて海水浴客が減るという皮肉な現象が起きていた。その分、水難事故も少なかったのだが。
ここ数年コロナ禍で、毎年恒例の盆の里帰りが途絶えていたが、小康状態の今年は久しぶりに多くの来客があった。娘・孫、叔母や甥っ子が入れ替わり立ち代わりやって来た。里帰りには、避暑の意味もあるのだが、皆が「東京も暑いがそれ以上だ」と口々に言っていた。娘たちも、さすがに危険を感じて孫を海へ連れて行こうとはしなかった。「7月に来られたら良かった」と盆に休みが集中する社会に不満をもらしていた娘の夫の言葉が印象的だった。
今夏、最後の来客となった叔母が在宅中に「事件」が起こった。
●全員で食卓を囲む 早飲みの弟
その日は、弟夫婦が夕方来宅して全員で食卓を囲んでいた。もちろん、酒を飲んだ。弟と飲むときに困るのは、ペースが非常に速く、私もそのペースに巻き込まれてしまうこと。弟は食べるのも速い。それは、北朝鮮で身に付けてしまった所作だ、と本人は説明する。監視員に秘密で食べていたことや、油断すると食べ物を横取りされるからだという。
酒も同様だ。若いころは飲むとじんましんが出る体質だったのを向こうで「克服」したそうだ。アルコール度数の高い焼酎を、小さなグラスで一気飲みをする姿は、韓国ドラマで馴染みがある。私の観察では、もう一つの理由がある。日本に留まり、子どもたちの帰国を待っていた時分、焦燥感を紛らわすため、酒を味わうのではなく、早く酔うために飲んで現実から逃避するのだ。そして、それが日常になってしまった。
●「おとうさんがいない」 救急搬送
私は、弟と同じペースで飲んだため酔って眠くなり、その場で寝てしまった。目を覚ますと部屋には誰もおらず、すっかり片づけも終わっていた。きちんと寝ようと2階の自室に場所を移し、うとうとしていると、1階から叔母の叫び声が聞こえて起こされた。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)