ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/20230721054000111706 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●デジタル化 完全ペーパーレス化はまだ先 世の中はデジタル化。押印が廃止されるなどしている。しかし、原本主義が根強い分野があることや、使い勝手の面などから、この社会の完全なペーパーレス化はまだまだ先のことになると考えられる。 それならば、適正なドキュメント・マネジメントが必須であるはずなのに、各地の裁判所で記録がいとも簡単に廃棄される問題が起きている。また、他の行政文書についても、恣意的としか考えられない廃棄が相次いだ。さらに、身近なところで言えば、柏崎刈羽原発における文書の無断持ち出しや紛失など管理のぞんざいさが問題視されている。 そこで、本稿では私の経験から原発におけるドキュメント・マネジメントについて考えてみたい。 ●ドキュメント・マネジメントとは ドキュメント・マネジメントとは、日本語で言えば文書管理、例えばカテゴリーごとにきちんと整理・保管され、要望に応じてリトリーブ(Retrieve:検索)し、素早く提供できるようにしておくこと。また、同時にドキュメント・コントロール、すなわちドキュメントに変更・更新、追加があった場合、速やかな正しい情報へのアップデートが要求される。 ●福島第一原発のドキュメント・マネジメント 初めて福島第一原発に赴任したのは1977年である。その時は、ドキュメント・マネジメントについては深く考えたことがなかったし、修理工事に手一杯で、おそらく文書管理などおろそかなんだろうなという程度だった。次に、福島第一原発へ異動した1986年、文書管理(原発では「図書管理」と呼んでいた)の業務も担当することになって、私の推測に誤りはなかったと知った。 原発で扱う文書は、種類、量ともに膨大である。例えば、建屋・機器配置図面、配管図面、電気関係結線図面、取り扱い説明書、許認可関係書類等々数えきれない。その形態も、マイクロ・フィルムから青焼き(湿式コピー)図面、CAD(Computer- Aided Design)図面、ビス止め製本、バインダー製本など様々である。 ●「図書管理棟」で一括管理 それらを一括して系統的に保管するためには、それ相当の容積が必要である。福島第一原発では、「図書管理棟」と呼ばれる建物と屋外倉庫を使用していた。当時はデジタル化が進んでいなかったせいもある。今ならば、全てデータ化すれば良いと指摘されるだろう。スペースも削減され、検索も容易にできる。そのとおりだが、現場工事をする際、どうしても紙が必要になる場合があるのは今も変わらないと思う。 確かに、工事開始前の説明会では、パソコンとプロジェクターで内蔵されたデータを可視化すればいいし、工事担当者はタブレットを所持すれば良い。ただ、作業前のTBM(ツール・ボックス・ミーティング)では、中心に大きな図面を広げて説明した方がコミュニケーションを取り易い。また、現場では紙の方がマーキングがし易く、折りたたんでポケットにしまうことができ、破損や紛失の心配もない。つまり、使い勝手が数段良いのである。 したがって、「図書管理棟」へ行けば、誰でも正確で最新のドキュメントが入手できるシステムを構築しておくことが必要不可欠であった。それは、現在も変わることはない。 ●「図書管理棟」が「社交場」に 図書管理棟は、さながら一般の図書館(ライブラリ)である。入るとカウンターがあり、対応する人(図書クラーク)が常時在席している。司書のような有資格者ではないものの、原発の専門用語などを身に付けていなければとても務まらない仕事である。一切の業務は、「東京レコード・マネジメント(TRM)」という会社に委託していた。若い地元の女性社員がほとんどで、カウンターに立つのも若い女性社員であった。その委託契約の東京電力責任者が私だったため、同僚から「蓮池さん、羨ましい仕事をしているね」とよくからかわれたものだ。 そんな事情から、特別な用事もないのに、足繁く「図書館」に通う若い社員が少なからずいた。文書管理棟がクラークさんとの「社交場」と化しているのを見つけて、苦言を呈したことも度々あった。それでもめげることなく、めでたく何組かのカップルが誕生したのも事実ではあるが。 話しが脇道に逸れたついでに、もう少しだけ逸れる。ドキュメント・マネジメントの重要性を社員らに啓発する目的で、TRMと共同して「リトリーバル」という小冊子を定期的に発行し、配布していた。小冊子には、新任のクラークさん紹介の欄があり、写真と出身地、趣味、好きなもの・嫌いなもの、抱負といった今考えればどうでもいい内容が掲載されている。ある新人さんの好きなものに「萩の月」とあったのを見かけた。後日、当人と話す機会があり、「『萩の月』が好きとは、なかなか風流ですね」と言うと、怪訝そうな顔をされた。私は意味が分からなかった。もう、おわかりだろう。仙台銘菓を私が知らなかっただけの余聞である。 ●工事のたびに必要なドキュメント・コントロール 本題に戻る。福島第一原発1号機着工以降のドキュメントが残っているのが自然と思われるだろう。だが、それが完全ではないのが実情だった。かろうじてマイクロ・フィルム化されていたものを紙プリントし体裁だけは整えた記憶がある。 また、改造工事が行われると、竣工後に工事内容を反映し、改訂履歴を記した新図面を、管理側に提出することがルール化されており、旧図面と照合したうえで差し替える手順が取られる仕組みだった。しかし、施工業者が大手であれば問題ないところ、中小となると変更部分のみを提出してきたり、通知なしだったり、こちらにすれば困る事案がままあった。そういった場合、自ら手書きで管理図面を修正するアナログ手法で対応するしかなかった。図面一式を受け取り、ライブラリに登録・追加すれば作業完了となる新設工事とは好対照をなす。… … …(記事全文4,653文字)
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)