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蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

映画「福田村事件」近日上映 私が森達也監督をリスペクトする理由

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/20230714054000111440 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●映画「福田村事件」とは  これまでドキュメンタリーを軸に活躍してきた森達也さんが監督を務める「福田村事件」が、9月1日から全国で公開される。森さんにとっては、初の劇映画である。 「福田村事件」とは、1923年の関東大震災直後、千葉県福田村(現野田市)で香川県から来た薬売り行商団15人が、讃岐弁で話していたことから朝鮮人と疑われ、地元の自警団に襲われ9人が殺害された凄惨な事件。自警団は逮捕され実刑となったが、昭和天皇即位の恩赦で釈放されたという。この史実は100年間、闇に葬られたままだった。  それを森監督が「集団の狂気」を主眼とした映画で世に明らかにする。「実話に基づいたフィクション」(同映画HP)である。総プロデューサーは、私の親友の弟で株式会社「太秦」の社長小林三四郎君、配給元も「太秦」となれば、観ないわけにはいかない。ちなみに、水道橋博士も自警団長役で出演している。 ●森さんとの出会い  共著「拉致2―左右の垣根を超える対話集」(かもがわ出版)における対談が森さんとの初対面だった。2009年のことだ。それ以降も、懇意にしてもらっていると勝手に思っている。例えば、同じイベントに出席したり、拙著の帯紙に推薦文を書いてもらったり、ニール・ヤングが共通して好むミュージシャンだと判明し、東京・新宿の「ROCK CAFE Loft」で「ニールを語る会」を催したりした。年齢もほとんど変わらず、森さんも高校時代は新潟で暮らしていたことも身近に感じる要素で、地元紙に寄稿していた森さんのコラムは欠かさず読んでいた。  私が新潟へUターンしてから、コロナ禍もあり、ご無沙汰気味だが、最近の映画「福田村事件」に関する朝日新聞のインタビュー記事が目に留まった。森さんのこの発言だ。 「そこにいた記者たちは皆知っていた。でも書かなかった。これはジャニー喜多川氏の性加害疑惑や、旧統一教会と自民党の問題と同じ。メディア企業の内部で、個々の記者が自主規制や同調圧力から思考停止し、一人称の主語を失うことの怖さです。メディアと社会は合わせ鏡。それをまず皆さんには気づいてほしい」  森さんとの付き合いの中で最も印象深いのは、初対面での対談だ。そこで、森さんはメディアの萎縮に言及していたし、関東大震災時の在日コリアンの虐殺にも触れていた。中でも「視点をずらせばまったく違う世界が見えてくる」という言葉は、強烈なインパクトがあり、私への最大の援護だった。主なテーマは拉致問題だったけれども、それに関連する森さんの主張は冷徹かつ核心を突くもので、私にとって「図星だ」とたじろぐ場面さえあった。森さんの鋭い洞察力には驚くばかりだった。正鵠を射る主張、しかも首尾一貫していること。私が森さんをリスペクトする所以である。  残念ながら、上述した共著は絶版になっているため、森さんの主張を共有したいと思い、少し長くなるが同書から一部をピックアップし紹介する。ここで、特に注目してもらいたいのは、今から14年前、2009年時点での発言であることだ。 ●北朝鮮に対する経済制裁に対する不思議 「制裁が解決に結びつかないどころか逆効果になる可能性があるということは、普通に考えれば、誰だって想像できると思います。だからずっと不思議でした。拉致された家族を取り戻すことを最優先にして当たり前なはずの家族会や救う会が、なぜ北朝鮮を成敗せよ的な主張ばかりをつづけるのだろうかと。自分の感性のほうおかしいのだろうかと思ったこともあります」 ●膠着の要因は家族会のプレゼンスと世相 言論は封殺されるべきでない 「膠着状態のひとつの要因は、家族会のプレゼンスと今のこの世相にあります。例えばこの4月29日、田原総一朗さんが、テレビ朝日の『朝まで生テレビ』で『横田めぐみさんと有本恵子さんはもう死んでいる可能性がある』と発言しました。これに怒った家族会と救う会は、田原さんとテレビ朝日社長宛に抗議文を送りつけ、さらにBPOに提起しました」 「もちろん、拉致されたとする8人が今は生きているか死んでいるか、それは現状ではわかりません。家族としては、まだ生きているし救出を待っていると思いたい。親族としては当然です。死んでいるなどと他人が不用意に口にすべきじゃない。人としてのたしなみや配慮はもちろん大切です。でも拉致問題が北東アジアの安全保障を考えるうえで重要なイシューになっている現状において、たしなみや配慮の次元に必要以上にこだわるべきではない。それは家族会としても覚悟しなければならない。つまり、いかなる言論や主張も、封殺されるべきではない」 ●メディアの萎縮 拉致の聖域化 「田原さんが『めぐみさんはもう生きていない』という情報を入手したと主張するのであれば、『人命軽視』とか『踏みにじる』などの情緒的な語彙で反駁するのではなく、情報の出自や検証も含めての検証が、まずはあるべきです。ところが発言と同時に『謝れ』。しかも世相もこれを後押しする。だからメディアはさらに萎縮する。多様な視点が消えてしまう。家族会や救う会、さらいには拉致運動そのものが聖域化されてしまう。そんな悪循環がもうずっと、この社会に醸成されてきたことは確かです」 「家族会が感情的になることは、ある意味で当然です。だって彼らは当事者ですから。冷静になれなくて当たり前。問題は、彼らが抱くこの感情的な領域が、メディアや政府、そして一般の国民によって形成される社会という非当事者にそのまま感染していまっていることです。しかも社会が抱くこの共感には、愛する家族を突然失ったという悲嘆や苦しみが、実のところは欠けている。あくまでも想像の領域です。つまりリアルではない。だからこそ表層にある北朝鮮への応報感情ばかりが突出する。これは死刑制度存置を8割以上の国民が支持するという、今のこの国の状況に共通しています」 ●家族会の主張は不自然 「当事者が感情的になることは当たり前であるけれど、でも同時に僕は家族会が表明するその感情の回路が、何となく不自然だという感覚をずっと持っています。言葉を選ばなければならないところだけど、何らかのバイアスが働いているような気がして仕方がない。例えば、経済制裁。もしも政府がそんな方針を決めたとして、それに対して『制裁などされたら逆に殺される』と家族会が反対するという構図ならば、まだ分かる。でも現実には逆です。家族会と救う会が『強硬策をとれ』と世相をリードしている。それがずっと不思議でした」
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