ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/2022030406000091682 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 //////////////////////////////////////////////////////////////// メディアは、ロシアによるウクライナ侵攻一色になってしまった。テレビでは連日「専門家」と称する数多の人が解説を行っている。ロシアとウクライナを巡る情勢は複雑で、かつ現場を見てもいない人が伝聞情報に基づき安易な分析をして、やたらと危険を煽る発言には注意しながら、冷静に見極めていきたい。もちろん、私もいかなる戦争にも反対する一人である。できる限り「戦争反対」という大きな声を上げていきたい。一方で、この状況に便乗して日本の核保有論・核共有論を展開する政治家がいることには絶望感しかない。 また懸念するのは、ロシア・ウクライナにばかり耳目が集中して、国内に山積する問題が看過されてしまうことだ。新型コロナウイルス対策もそうだが、とりわけ来週で11年を迎える東日本大震災・福島第一原発事故である。昨年、10年という「節目」を迎えたことから、津波災害に偏った大々的な報道が行われた中で、福島第一原発事故についてはほとんど触れられなかった気がする。今年は慰霊式典を行わない被災自治体が多く、メディアも軽くスルーしてしまうのだろうか。 そこで本稿では、原発を稼働するため、作業員は放射線被ばくを余儀なくされていることについて述べたい。 〇昔の原発内部は非常に汚かった 私が福島第一原発に勤務していた1970年~80年代は、原発内部の放射性物質による汚染は、現在とは比べものにならないほど酷い状態だった。その要因として、トラブル(配管の応力腐食割れ:SCC)が相次いで発覚し、修理のための停止期間が長引いたこと、放射線管理に対する認識が希薄だったことなどが挙げられる。通常は、運転の間に数カ月の定期検査を行うのだが、当時は定期検査の合間にわずかに運転する程度であった。放射線量率も放射能も高い原子炉近くの配管を交換する工事であるため、作業員の被ばく線量も多く、汚染区域も自ずと広がっていき、その分また被ばく線量も増えるという悪循環に陥っていた。 原子炉建屋、タービン建屋、廃棄物処理建屋などの各建屋には、区域ごとの空間線量率を計測するエリアモニタと、主要な配管やダクトを流れる液体や気体の放射能を計測するプロセスモニタが設置されている。いずれのモニタも制限値を超えると中央制御室に警報が出るのだが、汚染状態が上述のとおりだったため、警報が出っ放しの箇所があった。除染作業等によりクリーンアップしてもなお警報は消えなかった。 このため対策(対通産省の)として、プロセスモニタの場合、検出器の設置されている配管を鉛で覆い遮へいした。エリアモニタに関しては、検出器そのものに鉛の板を巻き付けるというとんでもないことをしていた。あろうことか、中央制御室に設置されているエリアモニタが警報を発することもあった。 〇記録に残らない被ばく線量も 私が担当したのは、計測制御装置のメインテナンスであった。ただでさえ汚染が広がっている原子炉建屋の中で、最も線量率が高い原子炉圧力容器底部(「ペデスタル」と呼ばれる)も作業現場の一つだった。作業と言っても実際に行うのは、下請け企業であり、東京電力社員は「監理員」という名の下に作業の最終確認を行うだけである。 当時の放射線管理区域へ入る際の装備は、ポケット線量計、線量アラーム(設定した被ばく線量に達すると鳴動する)、フィルムバッジ、TLD(熱ルミネッセンス線量計 Thermoluminescent Dosimeter)であった。いずれも外部被ばく線量を測定するものである。このうち、記録する被ばく線量は、ポケット線量計(ペンを太くしたような直径2.5cmほどの円筒状の測定器)の指示値で、万華鏡のように覗いて目盛りを読み取るというアナログな方法だった。 監理員の私でさえ、2年余りで100ミリシーベルトを被ばくしたのであるから、下請け企業の作業員のそれは推して知るべし。年50ミリシーベルト、5年100ミリシーベルトという線量限度ぎりぎりだったかもしれない。だが、この限度を忠実に守っていては仕事にならない。測定器をすべて外して現場に入るという愚行が蔓延っていた。 ペデスタルで、直接頭から原子炉の水を浴びながら行う特殊な作業をする人がいた。それは、他の人にはできないことから、全国のBWRを渡り歩いており業界では名が知れ渡っていた。もちろん測定器は装備していない。そういった人が「すごい」と称賛される、つまり「武勇伝」がまかり通る時代だったのだ。被ばく線量記録は適当であり、正確な値は記録されない。実は、私にも記録に残らない被ばく線量があった。 〇放射線管理区域入域手当は危険手当ではない… … …(記事全文4,384文字)
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)