… … …(記事全文3,596文字)この度,10年前に哲学や民俗学,そして,国土計画学の有志の学者の皆さんと一緒に立ち上げた,
『実践政策学』
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ppseb/-char/ja
という学術雑誌が,国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) のオフィシャルなジャーナルシステム「J-STAGE」に掲載される事になりました.
このシステムは,学術界の標準的な学術論文掲載システムですので,これでより幅広い方々に本誌論文にお触れ頂ける様になったものと,思います.
そもそもこの学術誌,いわゆる「タコツボ化」したが故に,「機能不全」の「脳死状態」に陥りつつあった各学界とは別に,各々の学問が立ち上げられた近代黎明の頃の学者の志にもとづいた真の学術運動を展開すべしとの思いで,石田先生,桑子先生,森栗先生という,土木計画学,哲学,民俗学のそれぞれ各学界の泰斗の先生方と共に立ち上げた,学術誌です.
最初は学術界でほぼ知られることのなかったものではありましたが,この10年の展開で少しずつ読者,投稿者が増え,ようやくこの度J-STAGEなるシステムに掲載されることと相成った次第であります.
ついては,今日は,この雑誌をご紹介する主旨もこめて,この雑誌の最新刊に掲載された当方の論文(もちろん,当方の論文の査読には当方は参加していません),を一つ,ご紹介さしあげようと思います.
この最新刊の一つ目の論文として掲載されたのは,
『新自由主義の詭弁性とその心理的効果に関する実証研究』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ppseb/10/2/10_125/_pdf/-char/ja
という論文.
これは,かれこれ,5,6年前にやった研究だったのですが,そこでは,このタイトル通り,「新自由主義を叫ぶ学者達やジャーナリスト,政治家達の言説は,根本的に「詭弁」(つまり,論理上の嘘八百!)そのものである…が,詭弁であるが故に,全うな言説よりも,人々に強烈なインパクトをあたえ,その詭弁によって,強烈に世論を歪め続けているのだ!」
という恐るべき実態を,学術的に明らかにした研究です.
この研究ではまず,過去の研究で明らかにされた,以下の四つの「新自由主義的言説」が,如何に詭弁に塗れたものであるのかを,論理学的に明らかにします.
■消費増税物語
高齢化による社会保障費の増加や、震災復興などの歳出増等の致し方のない出費が増え、致し方なく国債発行を重ね、将来世代にツケを後回ししてきた結果、日本の財政はどんどん破綻に近づいてきている。だから、そんな破綻を避けるためには、もう消費税増税するよりほかはないのである。
■脱公共事業物語
十分なインフラが整備された今日の日本では、公共事業はもはや無駄なものが多く、非効率な投資を不用意に推し進めたせいで財政赤字も膨らみ、期待された景気対策効果も薄かった。だから今となっては、旧式の公共事業で構成される経済政策ではなく、新たな経済成長戦略が必要なのである。
■構造改革物語
日本には非効率な産業を守ったりする様な、無駄で無意味な規制やルールが多すぎる。だからこそ、規制緩和や農業改革、法人税減税で企業活力を高め、経済を活性化すべきである。
■外に打って出るしかない物語
そもそも日本は貿易立国であり、さらに今や世界は、グローバル化の時代である。しかも、少子高齢化の今日の日本では、内需の縮小は宿命的に避けられないのである。そうであれば、日本が経済成長を果たすには、外に打って出る以外の選択肢は考えられないのである。すなわち、輸出に不利な円高を是正すると共に、韓国などとの国際競争に負けないように TPP などの自由貿易協定を推進することこそが、今日本に強く求められているのである。そうした対策がなされなければ、国内産業は空洞化せざるを得ないだろう。
この四つの言説は,その辺の新聞や雑誌,政府答弁で散見されるものであることは,多くの読者もご理解頂けるものと思いますが,コイツらを論理的に分析すると,トンデモ無い下図の「詭弁」(繰り返しますが,論理上の嘘!)に塗れたものであることが明らかにされます(それが表 2、3、4、5に示されています!).
そしてその上で,この「詭弁文章」と,その詭弁を論理学的に「正しいもの」に矯正した「適正文章」(表7,8,9,10)とを用意し,これらを使った心理実験を行いました.
この心理実験は,「詭弁文章」と「適正文章」の双方(ただし,各テーマ毎にいずれか一方)を,京都大学と筑波大学の学生計 92 名に読ませる,というもの.
そして,その文章を読む「前」と「後」において,それぞれの文章が言及している,消費増税や公共事業推進,構造改革,自由貿易といった「四つの政策方針」に対する(賛否を中心とした)「意識」を,各被験者に尋ねます.
そうして得られた心理データを分析し,それぞれの文章を読んだことによって,それぞれの政策方針に対する(賛否)意識がどう変わるのかを調べる,というもの.
…でその結果分かったことは…
「詭弁が入った文章では,人々の意見はガッツリ変化するが,
詭弁が入っていない「適正な真面目な文章」では,人々の変化は全く変化しない!」
という全く以て悲しい「現実」だったのです…(表 16)
…ただし,詭弁が入った文章では…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)