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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

【自民総裁選・史上最大の混戦】 財務省の暗躍が導く「高市総理誕生が幻に終わる」というシナリオが実現するか否は,後は偏に候補者各位・国会議員各位の“良心”にかかっている.

いよいよ総裁選の投開票まで一週間を切りました.候補者は9人出馬していますが,現時点での各社の調査によれば,総裁となり得る現実的可能性があるのは,小泉,石破,高市の三人に絞られてきています.

 

総裁選といえば,おおよその場合,始まった時には誰が総裁になるのかがほぼほぼ読めるのですが,今回は派閥がほとんど消滅した状況となっていることから,実力勝負の総裁「戦」が現実に展開され,その結果,「史上最大の混戦」と言うべき状況に至っているわけです.

 

ただし残り一週間というところで,三強候補の一角である小泉進次郎氏が,遅れを取り始めています.出馬記者会見の時は入念な原稿準備と長い時間をかけた進次郎氏の練習の成果がでて大成功に終わり,俄然進次郎優勢,と言われていましたが,その後のテレビや地方での自由な討論会で発言する度に,一般的な政策論争どころか,大人としての平均的な会話のキャッチボールができないという真実が露呈してしまい,その人気が一気に失われていったのです.

 

無論,この期に及んでも一応,小泉総理誕生の可能性も皆無という訳ではありませんが,その水準は殆ど無視できるレベルにまで少々しているのが実情です.

 

したがって,今やもう,かつての小泉,石破,高市の「三強」状況から,事実上の石破,高市の「二強」状況へと,シフトしつつあるのです.

 

では,石破,高市のいずれが勝利するのか…ですが,これが現時点では実に読めない展開となっているのです.

 

このことはつまり,別の言い方をすると「高市総理が幻で終わる」可能性が今,十二分以上にある,という事を意味します.

 

まず,最大の懸念は,小泉氏の支持者達の動きです.

 

小泉氏の後ろ盾は菅氏.そして,石破氏と菅氏との関係も良好です.しかも,小泉氏も石破氏も財務省が直接間接に支援する候補者.その上,菅氏も財務省も,高市総理誕生を心底忌避しています.菅氏は自らの勢力の維持拡大を失いたくないため,財務省はPB規律の緩和・撤廃やそれに伴う国債発行額の拡大を避けるためです.

 

したがって,高市・石破の決選投票となれば,小泉氏を支援していた議員票の多くが石破氏に流れることが予期されるのです.

 

普通の三つ巴なら,三位になった候補者がいずれにつくのかで勝敗が決することとなりますので,以上の分析より,小泉氏に支援される石破氏が勝利すると言うことが可能となります.

 

ところが,今回はそうではありません.何と言っても今回は9人もの総裁候補が乱立しており,上位三人の二人分の票を纏めるだけでは,勝利できるとは限らないからです.

 

この点に配慮し,菅氏&財務省は共に,高市包囲網を作る作戦を今,立てているとみられています.

 

その際に重要となるのが,四位の小林鷹之氏です.彼は「保守」と銘打っていますから,普通に考えれば決選投票で高市氏を推す筈ですが,彼のもう一つの「財務省出身」という顔かがすれば,高市を推さず,石破氏を推す可能性が十分考えられているのです.

 

財務省はその可能性をかけ,今,徹底的に小林氏に働きかけている筈です.そして,その働きかけを通して,小林氏が石破氏支援に回る可能性は十分に考えられるのです.実際,小林氏はこれまで,再三にわたる働きかけにも拘わらず,自民党内の責任有る積極財政を考える会への加入を拒否し続けてきたとしばしばメディア上でも指摘されています.しかも,財務省が事実上の事務局を務める令和臨調のメンバーでもありますから小林氏と財務省の関係は今でも濃密に存在していると一般的に見られているのです.

 

こうした状況の中,石破氏が小林氏に対して,「官房長官」や「財務大臣」等の何らかの役職を提示する交渉を図れば,小林氏が石破氏支援に回る可能性はさらに高くなります.

 

同様に財務省は,元財務官僚である加藤勝信氏に対しても徹底的な働きかけを進めている筈です.加藤氏については菅氏との距離も近いと言われています.もし石破氏が加藤氏に対して,菅内閣と同様の「官房長官」や,自民党の事実上の最高権力者である「幹事長」を提示すれば,加藤氏が石破支援に回る可能性も十分考えられるわけです.

 

さらには,小泉氏が石破氏に回ることを前提とすれば,小泉氏を支援している木原誠二氏が石破支援に動き出す可能性があります.言うまでも無く,木原氏は元財務官僚ですから,財務省は今,木原氏への働きかけも全力で行っている筈です.そうした説得工作も含めて木原誠二氏が石破支援に回るということになれば,それはすなわち木原誠二氏が参謀を務める元岸田派が石破支援に回るということを意味します(ただしそれは,岸田氏が菅氏の軍門に降る事を意味しますから,岸田氏がキングメーカーになることに失敗することを意味するのですが…).

 

それはすなわち,林芳正氏,上川陽子氏が共に石破支持に回るということを意味しています.ここで石破氏が林氏,上川氏に要職を提示すれば,その確率はさらに高いものとなるでしょう.

 

もしも以上のシナリオが現実のものとなれば,高市氏・石破氏を除く7人の候補者の内,小泉・小林・加藤・上川・林の実に5人が石破支援に回るということとなります.

 

財務省は今,こうした状況をつくるために,今,必死になって様々な工作を仕掛けている筈です.

 

そして財務省は最後の仕上げに,キングメーカーの一人である元財務大臣でもあった麻生太郎氏にも働きかけをしているはずです.

 

麻生氏は石破氏を積極的に嫌っていると言われていますから,流石に財務省といえども,麻生氏を石破支援に変えることは無理でしょうが,小泉・小林・加藤・上川・林の五人が石破支持に回っているのだという点を強調しつつ,今更,高市支援を打ち出しても,手遅れであることを伝えれば,高市氏を積極的に支援することを回避することは十分に考えられます.

 

…以上は,財務省が書き上げるであろう彼らにとっての最善のシナリオですが,果たしてこの財務省による「高市包囲網作戦」が成功するのでしょうか?

 

それはもちろん神のみぞ知るところではありますが,もし,財務省のその作戦が成功したとすればそれは,日本国民の『財政民主主義』が財務省によって奪い取られること,より正確に言うなら,財務省によって奪い取られ続けている状況がさらに次期内閣でも強固に継続することを意味します.

 

ただし,自民党の中には財政民主主義が財務省によって奪い取られていることに対して,忸怩たる思いを持っておられる国会議員は決して少なくないのが事実です.

 

積極財政議連の議員の皆さんや,いわゆる「保守」の立場を鮮明に打ち出しておられる皆さんは,何としてでも財務省に奪われた財政民主主義を,今一度日本に取り戻さんと日夜努力されておられます.

 

そして何より,財政民主主義の重要性について何度も発言してこられたことのある小林候補や加藤候補は言うに及ばず,その他の候補者の中にも,自らの政治的利益よりも「国民の利益」を優先する政治家としての良心,ないしは矜持をお持ちの方は必ずおられる筈だと考えます.

 

したがって,この度の総裁選の根底には,別の角度からみれば…

… … …(記事全文3,698文字)
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