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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

「中国人による10才男子殺害事件」は「媚中外交」の帰結なのか:この期に及んでも中国に毅然とした発言が出来ない候補者は,国民よりも〝媚中〟を優先する政治家である.

中国南部・広東省深セン市で,日本人学校の10才の男の子が歩いて通学途中に男に刺され,死亡しました.この事件に,日本人の多くは中国に対して,そして,その中国に対して毅然とした態度を取ることが出来ない日本の政治家に対して深い憤りの念を抱いています.

 

犯人の動機は不明とのことですが,多くの日本人は今,「犯人の中国人は日本人の子供を殺すために日本人学校に眼を付け,通学してる子供をわざわざ殺しに来たのではないか?」という深い疑念を持っています.

 

日本政府は中国政府に対して一応、情報提供、日本人の安全確保、再発防止を強く求めていますが,多くの日本人は,その程度の対応で十分だとは,到底思ってはいません.そのような申し入れは所詮,場当たり的な「言葉だけ」の空疎な対応に過ぎないからです.

 

そもそも多くの日本人は今,意識的か潜在意識的かの別はさておき,この事件を,「昨今の中国による日本の対する陵辱的行為」の一環であると受け止めています.

 

中国は運用基準が曖昧な『反スパイ法』に基づいて何人もの日本人を「不当」に拘束しています.

 

中国政府による我が国固有の領土である尖閣諸島における「領海侵犯」は,完全に常態化して,今や半ば「侵略」とすら言いうる状況になっています.そして挙げ句の果てに今年になって中国は遂に,国際法的に言うなら本来,自衛隊が「撃墜」しても一向に構わないような戦闘機による「領空侵犯」を行うに至っています.

 

「インバウンド」に関しても,中国人観光客による観光公害/オーバーツーリズムが常態化し,文化財に破壊的,陵辱的行為を繰り返しています.

 

こうして日本国民による「中国」に対する不満は,日に日に高まってきているわけですが,それにも関わらず,政府は一貫して「弱腰」の対応を続けています.

 

政府の第一の仕事は,(それこそ高市早苗さんが総裁選の出馬会見の際に言明された通り)国民を守り,領土領海領空を守り,そして何より日本人の「主権」と「誇り」を守ることの筈です.それにも関わらず,政府は,その第一の仕事を半ば「放棄」するような対応に終始してきているのです.

 

というより「責任を放棄」するばかりでなく,むしろその逆に「親中政治家」と呼ばれる多くの政治家達は,経済超大国化しつつある中国から得られる利益や利権や彼らとのビジネスの拡大のために,中国に媚び,日本人の「誇り」を売り飛ばす対応を繰り返してきました.現在の政府の中国に対する対応はまさに,そうした中国に対する媚態外交,所謂「媚中外交」(びちゅうがいこう)の流れに明確に位置づけられるのです.

 

思えば戦後の日中外交は田中角栄が切り開いたものですが,あの時の理念は今の日本政治からはあらかた消え去っています.田中角栄は,日中の歴史を踏まえながらも,お互いが誇りを持ち,お互いがお互いの誇りに経緯を評しつつ,協力すべきを協力し,世界各国との関係も見据えながら共存共栄を図るという崇高な理念を基軸としたものでした.

 

しかし,今や我が国は,どの国とも作ってはいない「友好」議連を日中間でだけつくり(林芳正氏が元代表です),ことある毎に大量の日本人ビジネスマンを引き連れて「中国詣」を繰り返す事を通して国民の主権や誇りを中国に「売り飛ばし」,領空領海領土への中国の侵犯に対して見て見ぬふりに終始する国家に成り下がってしまいました.

 

その結果,中国は日本に対する敬意を喪失し,見くびり,侮蔑する状況になってきたのです.つまり,平たく言うなら,日本の度重なる媚中外交を受け,中国は日本を「舐めた態度」を取り始めたのです.その延長に,昨今急激に拡大してきた中国人観光客達による寺社仏閣に対する陵辱行為があり,反スパイ法に基づく中国当局による日本人の不当な身柄拘束があり,領海,領空侵犯があり,そして,この度の日本人殺害がある―――それが今,多くの日本人が潜在的に認識している構図なのです.

 

例えば高市早苗氏は,追悼の意を表明し,(公式声明と同様の)邦人の安全確保を中国政府に求めると同時に,「運用基準が曖昧な『反スパイ法』についても同様です。拘束されている日本人の早期解放を求めます」というメッセージも発していますが,これはつまり,今回の日本人殺害の問題は一連の問題と連動するものであることを示しています. これは勿論,「中国による日本に対する侮蔑的態度」に対する「抗議」,そしてそれに基づく「抑止」を示唆するものでもあります.

 

ところが,それ以外の主要政治家や候補者からは,本件についての言及はあるものの,以上に指摘したような「中国による日本に対する侮蔑的態度」そのものを批判し,抗議する視点は,全く見られません.

 

例えば,岸田総理は,追悼の意と邦人の安全確保を要請するものですが,中国政府に対する厳格な抗議は全く示されていません.総裁候補の1人である上川外務大臣,ならびに,林芳正官房長官からのメッセージもそれと全く同じ趣旨であり,厳格な抗議は見られません.小泉進次郎候補も石破茂候補も全く同じで,中国の日本に対する陵辱的侮蔑的態度に対する「抗議」のニュアンスは全く見られない声明を公表しています.

 

つまり,高市早苗氏を除けば,各総裁候補者の本件についての声明は全て,判で押したように政府の「安全確保を申し入れる」というレベルに留まっています.なお,小林鷹之氏が,自分自身が首相に就任した場合に在留邦人の安全確保の強化などに取り組むという,(高市氏のような抗議のニュアンスはありませんが)幾分前向きな声明を出しているというのが唯一の例外といえますが,それ以外は「どんぐりの背比べ」の状態にあるのです.

 

いずれにせよ,所謂「保守」と言われる高市氏を除くそれ以外の総裁候補者達(ならびに,自民党の岸田総裁や日中友好議連の議員達)からは,中国政府の度重なる侮辱的、屈辱的,侮蔑的振る舞いを暗示し,それ自身に抗議するという声明は一切出されてはいないのです.

 

これでは日本がますます中国に「舐められる」ことになるのは必至です.

 

なぜこうなってしまうのかというと,自民党の中枢的政治家の多くが,中国政府に対して「忖度」をしているからと言う他有りません.中国に毅然とした態度を取ることで,自らの政治的立場に何らかの「不利益」が生ずることを懸念して,発言のレベルを抑制しているわけです.しかもそれは,(林候補,河野候補,茂木候補,石破候補等の)親中と呼ばれる候補者達のみならず,(小泉候補等の)親米と呼ばれる候補者達も同じです.

 

なぜならアメリカは…

… … …(記事全文3,749文字)
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