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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

小泉進次郎氏が農業部会長として従事した「農業改革」が,日本の農の衰退,食糧自給率の低迷,地方疲弊,そして東京一極集中問題をもたらした.自民党は今こそ,反省すべきである.

昨日途中までご紹介した,都市計画学会から依頼された「計画論としての規制の役割」の論文ですが,本日その後半を纏めました.

 

今回論じたのは,「農業についての自由化」が,日本の農業・農家を潰すのみならず,国土を荒廃させ,過疎と過密をもたらした一極集中構造を導いたのだ,というお話しをいたしました.

 

今回の総裁選に引きつけて言うなら,農業の自由化というのはまさに,小泉進次郎氏が長年取り組んで来た,最も典型的な「売国」政治.

 

一方,今回の総裁選では食糧自給率の確保,という言い方で,高市早苗氏が論じている内容とも関わる内容となっています.

 

この総裁選の機会を是非,いろんな論点の背後にある「思想的問題」についての深い理解を得るための機会として捉えて頂けると,大変有り難く存じます.

 

では是非,ご一読下さい!

 
農林業を保護する各種法規の「規制緩和」が東京一極集中を招いた

 以上に示したライドシェアの規制緩和も大店法の規制緩和も,いずれも「タクシー会社」や「地域商店」を「保護」を弱体化し,撤廃するものである.その結果,タクシー会社や地域商店によって「保護」されてきた様々な「公的価値」,それはすなわち,タクシーサービスや地元商店サービス,それらに支えられた人口や地域経済,地域社会,地域文化,そして国土が毀損されていくことになったのである.

というよりもそもそも,そうした「規制」が近代国家日本において公的に導入されたのは,そうした「公的価値」を「保護」することが社会正義の観点から必要だと判断されたからに他ならない.

それにも関わらず,ビジネスの視点から主として「大企業」(つまり資本家)達の「自由」を優先し,そうした「公的価値の保護」が撤廃されていったのが,大店法やライドシェアを巡る規制緩和の議論であった.つまり「金儲け」が「社会正義」よりも優先された結果として,様々な規制緩和が推進されてきたのである.

そうした規制緩和は枚挙に暇はないが,「国土」の有り様に決定的な影響を与えたのが,「一次産業」についての様々な規制緩和だ.

そもそも,国土の3分の2が森林であり国土の13%が農地だ.すなわち,我が国国民は,国土と森林をあわせた国土の約8割もの広大な土地を利用して,一次産業を営んできたのである.したがって,農林業の「保護」(ならびに,そのための各種規制群)は,国土の8割を「保全」するものであった.

それと同時に,農林業を「保護」するということ(ならびに,そのための各種規制群)は,国土の8割を「無住地」から「居住地」へと転換する上で(逆に言うなら,「居住地」の「無住地」化を抑止する上で),極めて重大な意義があった.

一方で,政府が農林業についての各種の規制を緩和し,その「保護」を辞めてしまえば,国土の8割が無住地化する危機に直面する事になる.

そして,人々は,自らが生きていくための生業を求めて,農林地以外の場所,すなわち「都市」へと移動せざるを得なくなる.つまり,農林業の保護を停止する各種の規制緩和は,必然的に都市への一極集中,そしてそれは畢竟,「東京一極集中」を導く事になるのだ.

そしてその逆に農林業の保護のための規制存続・教化は,同じく必然的に都市,および東京への一極集中を緩和し,地方への分散をもたらす事になるのだ.

以上の議論より,農林業の保護,およびそのための各種の規制は,農林業を保護するのみならず,日本の国土全体の活用を促し,それを通して,都市部および東京への一極集中を防ぎ,地方分散を促進するという極めて重大な「公的価値」をもたらし続けてきたことが分かる.

そして言うまでも無く農林業の保護は,食糧自給率・木材自給率の上昇,経済安全保障の確保という国家的な公的価値をもたらすものでもある.したがって,農林業の保護のための規制を軽々に緩和するという姿勢は,「社会正義」の観点から断じて許されざるものなのだ.

しかし,農林業の規制緩和は,様々な形で徹底された.言うまでも無く,その際に共有された規制緩和を正当化するナラティブは…

… … …(記事全文3,580文字)
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