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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

石破茂氏は典型的「緊縮財政」論者.公約で「デフレ完全脱却」を掲げるも,結局「口だけ」に終わるという評価が専門家筋の一般的観測である.

石破氏は今回の総裁選の立候補にあたり,『地方創生を「日本経済の起爆剤」と位置づけて大規模な対策を講じるとともに、災害への備えを強化するため「防災省」を創設する』と宣言している.

 

そして,『「経済あっての財政」という考え方に立ち、デフレからの脱却を最優先に経済・財政運営を行い、成長分野に官民挙げての思い切った投資を行い安定成長を実現しつつ財政状況の改善を図る』とも述べている.

 

これらの主張は当方が長年主張してきた政策論とも同じ方向にあり,一定評価することができるものだ.

 

しかし,選挙公約は,その主張内容の「正当性」だけではなく,その内容をホントに実施するのか否かという「信頼性」について慎重に吟味することが必要だ.

 

この点で考えた時,誠に遺憾ながら石破氏についてはその「信頼性」は乏しいと言わざるを得ない,というのが,現時点における筆者の判断だ.

 

なぜなら石破氏は,例えば高市氏や青山氏とことなり,「これまでの発言」と「総裁選公約」との間に乖離があるからだ.つまり,石破氏はこれまで「緊縮財政」を是とする発言を繰り返してきたのである.

 

例えば,石破氏が出馬を表明した後の9月9日時点で野村総合研究所が出した総裁選についてのレポートには,次のように明記されている.

 

『石破氏は、アベノミックスの功罪を議論し、積極的な金融緩和と財政拡張の弊害を指摘する。財政健全化を進める観点からも、財政経済諮問会議の発展的な見直しを主張する。』

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/fis/kiuchi/0909

 

つまり石破氏は積極的な財政拡張に反対し,財政健全化をする典型的な緊縮派であると言明されているわけだ.

 

実際,昨年の10月,岸田政権で減税論が取り沙汰されたとき,石破氏はその方針に強く反対していた.その石破氏の言動が,次のように報道されている.

 

『「安易に減税に走ると将来の財政的自由度が失われ、目の前の人気取り政策と言われても仕方ない」…石破氏は、財政規律派であり、2018年の自民党総裁選で、経済成長を重視する安倍晋三首相(当時)の「アベノミクス」を修正する政策を打ち出している。』

https://www.zakzak.co.jp/article/20231010-ISYIDHKUO5OX7P4DRRI6OY6CE4/

 

これはつまり,「減税して税収が減れば,財政を削らないといけなる」と石破氏は主張しているわけだが,それはつまり「国債」の発行額を増やしてはいけないという前提を石破氏が頑なに信じていることを意味している.だからこの記事の記者も「石破氏は,財政規律派」と明言しているわけだが,こうした石破氏の言動は今回の総裁選公約に明らかに矛盾している.

 

ただし,その「矛盾」そのもの,つまり,石破氏の財政規律派・緊縮財政派のとしての言動そのものがこれまで驚く程に「一貫」しているのが事実なのだ.

 

例えば昨年1月「国債の60年償還ルールの廃止・延期論」が自民党内で盛んに論じられた時にも,石破氏は緊縮財政派の面目躍如と言わんばかりの主張を展開した.

 

「国債の60年償還ルール」というのは,どのような国債も,それがどれだけ長期であっても,60年で完全に償還(返す)しなければならない,というルールだ.通常の国には,こういうルールはなく,国債発行を忌み嫌う財務省が日本政府に「だけ」無理矢理ねじ込んだ,異様かつ異形の特別ルールなのだ.

 

というのも,普通の国は政府が借りたお金を返すにあたっては,「借り換え」を返すということが許容されている.「借金の満期」が来てもその時点でまた,お金を借りて返済する,ということが,当然のこととして許容されているのだ.

 

ところが日本においてはこれができるのが,最長で60年までとなっている.

 

そしてこのルールがあるせいで,日本政府は,国債を発行すれば,その「60分の一」の金額を,政府内で「積み立てておく」という会計が毎年行われているのが実態だ.つまり,例えば60億円借りたとすれば,毎年1億円ずつ「積み立てておく」ことが半ば義務的に行われているのだ.そして,60年目がきたら丁度60億円「積み立てて」あるので,それを使って,借金を返済する,ということをするわけだ.

 

昨年自民党では,こういう事をやっても全く無意味であり,ただ単に政府が使えるお金を減らしているだけなのだから,(60年償還ルールを見直して)外国と同じように延々と「借り換え」ができるようにして,毎年「60分の一」を積み立て続けていくということを辞めようではないかという議論があったのだ.

 

こうした議論は当方にしてみれば極めて正当な議論であり,是非ともそうすべきものだと言う他ないものなのだが,驚くべき事に石破氏はこの時,次のように発言したのだ.

 

「ルールを見直しても、新たな財源がでてくるわけではない。国民の負担が魔法のように消えるわけではない。」

https://www.sankei.com/article/20230119-3UZGWW3V4JMTHFCIIEA5DHKTDI/

 

要するに石破氏は,この60年償還ルールが一体どういうもので,それが如何にナンセンスなものなのかを全く理解していなかったのである.というよりも,石破氏は「借金を借り換えし続けて,ずっと返さないなんておかしい!」という財務省の間違った(諸外国では一切通用しない!)見解を頭から信用してしまっているのである.

 

ただし,石破氏のこうした「根本的に間違った」経済思想については,その間違いを糺すべく,様々なエコノミストや経済学者達が説明・解説を加えてきているようである.例えば,著名エコノミストのお一人である田村秀夫氏が懇切丁寧に,緊縮財政の間違い,積極財政の必要性を解説されたそうである.ところが,その時の石破氏の反応は次のような大変に「残念な」ものだったようである…

 

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