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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

【北陸新幹線】森喜朗氏など一部議員は早く開通するから「米原ルート」が適当だと主張.しかしそれは間違い.調整・調査の期間を考えると「米原ルート」の方が遅くなる!

今年3月に,福井県敦賀市まで(東京・長野・金沢方面から)開通した「北陸新幹線」.

 

これでいよいよ残すは,敦賀から大阪までの区間だけ,この区間を可及的に速やかに繋ぐべし,という機運が今まさに高まっています.

 

新幹線整備は党外テーマの与党プロジェクトチーム(以下,与党PT)での議論をベースに進められてきているのですが,これまでの与党PTの議論では,

 

「小浜ルート」(敦賀―小浜―京都―新大阪を整備し,北陸新幹線を新大阪まで直接繋ぐルート)

 

での整備が決められています.しかし昨今,石川県の森喜郎元総理らを中心として,かつての与党PTで採択しないことが決定された,

 

「米原ルート」(敦賀―米原までだけ北陸新幹線を整備し,米原―京都―新大阪区間は,現状の東海道新幹線を使うルート)

 

を改めて採択すべきだ,との声が一部において残っている状況にあります.

 

しかし,米原ルートは,確かに整備距離が短く,費用も安くつきますが,北陸沿線地域の利益,さらには,国益全体を考えた時, 圧倒的に劣るものであるということが,学術的に考えられています.

 

詳細は,『北陸新幹線の「小浜ルート」が政治決定された合理的・学術的・経済学的理由 ~「米原ルート」は国益増進効果において圧倒的に劣る「安物買いの銭失い」案である~』(https://38news.jp/economy/28223)でも指摘しましたが,集約すると,以下の四つのデメリット米原ルートにはあるのです.

1)米原ルートでは乗り換えが必須となり,東京―京都・大阪間の北陸新幹線のアクセス性が、時間的にも心理的にも米原ルートは小浜・京都ルートよりも圧倒的に低い(とりわけ,米原ルートでは,JR東海が運営する東海道新幹線を利用する事が必要となり,その結果,JR西日本の北陸新幹線乗客のための便が米原―京都・大阪間で十分に設置することができなくなる).

2)したがって,米原ルートでは,小浜ルートに比して「関西・北陸の一体化」が進まなくなる.結果,関西・北陸の経済成長,そして国全体の経済成長が,米原ルートにおいて圧倒的に限定的になる.

3)しかも,米原ルートでは,米原―大阪の区間を北陸新幹線と東海道新幹線で共有する事になり,その区間を共有しない小浜ルートよりも,地震等の災害に対する「強靱性」が圧倒的に劣る事になる.

4)さらには,小浜ルートは山陰新幹線構想に繋がるというメリットがある一方,米原ルートは小浜ルートに比して「山陰新幹線」構想へのメリットが皆無である

 

すなわち,米原ルートは,確かに「安い」買い物ではあるものの,圧倒的にメリットが少ないルートなのであって,所謂「安物買いの銭失い」案なのです.

 

こうした指摘に対して,米原ルート派は,

 

「いち早く関西に繋ぐには,整備期間が短い米原ルートの方が得策だ」

 

というロジックを持ち出すことが,ここ最近では一般的となっています.

 

しかし,この指摘もまた,完全に誤った認識に基づくものなのです.

 

実は,小浜ルートで少なくとも「京都」に繋がるまでの期間と比べれば,米原ルートの方が,開業年次がより遅くなる」と考えられるのです.そして最悪のケースでは,10年や20年,あるいはそれ以上も「米原ルート」の方が開業年次が遅くなるリスクが濃密にあるのです.

 

まず,「小浜ルート」の場合,今京都駅の有力案といわれる「南北案」の場合,京都接続がおおよそ20年と見込まれています.

(参考:https://www.tetsudo.com/news/3211/)

 

一方で,米原ルートは,以下の想定から,最低でおおよそ20年,長ければ,30年,40年,あるいはそれ以上かかるリスクが想定される事になります.

 

※ 着工までには,事前調査(最低1年)、交通政策審議会鉄道部会での審議(最速で1年)、環境影響評価手続き(4年)の三つが少なくとも必要となり,これが最低で「6年」.

※ これに加えて,JR東海とJR西日本との間の調整期間,滋賀県との調整期間が必要となり,常識的に考えて6年で着工できることはほぼ100%考えられ無い.ここが場合によっては,10年,20年以上の歳月を要する可能性も,場合によっては調整がつかない可能性もが十分あり得る.

※ 工事はH28与党決定でおおよそ10年と言われている.ただしこの10年という数字は「働き方改革」の影響を加味していない.小浜ルートの山岳トンネル工事についてこれを加味したところ,当初15年の見積もりが20年と1.33倍に延長されていたが,この比率を考えると13.3年という事になる.

※ したがって,理論的な最速で19.3年,つまり約20年であるが,実際にはJR東海とJR西日本,滋賀県との調整期間を加味すると,余分に最低でも数年,長ければ,10年,20年以上の期間がかかると予期される.

 

以上より,

 

小浜ルート京都接続約20年 < 米原ルート米原接続約20年以上

 

ということで,米原ルートの方が,完成迄の時間が余計に長くかかると予期されるのです.

 

しあがって,米原ルートは確かに整備費用は安いものの,便益,経済効果,そして,工期の視点のいずれから考えてみても,圧倒的に「劣る」,やはり,「安物買いの銭失い」な選択肢なのです.

 

既に与党PTでは米原ルートの可能性はないとも言われていますが,一部議員,ならびに一部世論において米原ルートの声があることを鑑み,今回改めて「整備期間」について考えてみたわけですが,大方の予想に反して,米原ルートの方が実際上は余分に時間がかかることが分かったわけで,したがってそういう米原ルートを推す声には,殆ど何の合理性もない,と言わざるを得ないわけです.

 

後は粛々と,その経済効果,税収拡大効果を認識した上で,新幹線整備のための十分な「国費」を確保することが必要なのです.

 

そして,そういう「積極財政」を推進可能な「総理・総裁」の誕生を(そして,それができない緊縮派の総理候補が総裁選で敗北することを),心から祈念したいと思います.

… … …(記事全文2,960文字)
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