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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

「ぽっくり死ぬことが理想だよ」と周りの方々と笑いながら言い合っていたおばあちゃんがまさにその様にして亡くなりました.こうした幸福な死に方をするにはどうすればいいのか,私達は真剣に考えねばなりません.

先月,表現者クライテリオンでもしばしばご執筆頂いている,当方の友人でもある医療ジャーナリストで医師の森田洋之氏の医療現場に視察に伺った折の様子を,下記日記にてご紹介さし上げました.

 

『【超感激!】「過剰医療」の対局にある「理想的な介護医療現場」を知りたくて,森田洋之氏と介護施設「いろ葉」さんによる在宅医療現場の視察に行って参りました.』

https://foomii.com/00178/20240616223647125438

 

このタイトルに御座いますように,こんな素晴らしい介護医療現場があったのかと,心底感激いたしたのですが,なぜそんなに感激したのかというと,その折の内容を引用しますと,

 

『何が違うって,90才以上のおばあちゃん達が,身体にはいろいろと病理を抱えておられる状況でありながら,「実に楽しそう」にしている』

 

からでした.ただし…

 

『そのおばあちゃん達,皆,90年間ずっと健康でやってきたのかというと,全くそうでは有りません.…彼女たちは何らかの深刻な病理を抱えている方ばかりなのです.』

 

じゃぁ,それにも関わらず,なぜ,おばあちゃん達はそんなに「実に楽しそう」にしていたのかというと,簡潔にまとめますと,『医師と介護者が協力して一人の重病の高齢患者を見守り,患者の「生きる力」を涵養するために患者の自主性を徹底的に重んじつつ,最終的に「自然に死ぬ」ことを,患者と関係者全員の理想としていることに成功する現場』だったからです.その結果,患者さん達は重病にも拘わらず,実に楽しそうに暮らしておられたのです.

 

そんな視察の折りに,その医療現場に立ち会った有る一人のおばあちゃんが,この度亡くなったとの一報が参りました.そのおばあちゃん,については,先日の日誌に記述しておりましたので,改めて下記に引用いたしたいと思います.

 

『ある高齢者の患者さんは他の病院で文字通り長い間「寝たきり」になっていたところ… 

縁あって介護施設「いろ葉」に来られたのですが,家に帰れる高齢者は家に帰し,「自分で」暮らして貰うという方針の「いろ葉」の判断で,一人暮らしを始めることとなりました.そしてその一人暮らしのおうちに,森田先生が在宅診療されるようになったとのこと. 

森田先生はまず,「いろ葉」の介護担当者と共にその患者さんと「信頼関係」を築き上げることから診療を始められたとのこと.本日の様子を見てますと,確かに森田先生とその患者さんの間には,ハッキリとした信頼関係が構築されているご様子でした. 

一応「在宅診療」というものな筈なのですが,森田先生は,白衣などなにも身につけず,Tシャツに短パンにツッカケの姿で「こんちわー!」とおうちに入っていきます. 

そこで,「今日はお客さんつれてきたよ~.京都からのお客さんだよ~」と当方を紹介した後は,ずっと,どうでもいいような(?)雑談ばっかり.あれは美味かったよとか,これも美味かったなぁとか,終始笑い合いながら,話しばっかり. 

おばあちゃんも「ホント,バカばっかいってぇ」と言いながら大笑い.  

そんな中,その患者さんと大層仲の良い森田先生はちょっと膝を触ると「そこ痛い」とおっしゃられ,そこから,どう痛いかについて,冗談言い合いながらコミュニケーション.そうやって,他愛もない日常会話の中に,医師の適格な目で,診察をしていかれます. 

そして,「前は寝たきりだったのに,随分歩けるようになったよなぁ」とおしゃられ,おばあちゃんも「そうそう」と反応.その反応を受けて森田先生は,「ちょっと藤井先生に歩いてるところ見せてあげてよ」といって,おばあちゃんと立たせてみます. 

おばあちゃんも「いいよいいよ」といいながら,自分が健康なところを見せたいのか,ニコニコしながら「しょうがないねぇ」と言いつつ,立ち上がり,一歩二歩と歩いて行かれました.

その歩く姿に当方は,(当方の寝たきりの近親者の姿を重ね合わせながら…)涙が出るほどに感動しました.』

 

このおばあちゃん,たった一月ちょっと前には,ここに記載の通りメチャクチャに明るく元気にしておられたのに(また,日記には記載しませんでしたが,その時,森田先生と二人で寿司食いに行こう,なんて約束してて,あそこの寿司は美味いだのこっちの方が美味いだのいいながら,「森田先生とデートだねぇ♥」なんていっておられるくらい超元気だったのに…),この度,息を引き取られたとのこと….

 

森田先生のお話によると,そのおばぁちゃんの近親者の方がお部屋に来ていた時,急に気分が悪いと横になったところ,数分で心肺停止となったとのこと.

 

つまり,このおばあちゃん,殆ど苦しむこともなく,直前までああだこうだと楽しく周りの人と過ごしていた中,ほぼそのまま息を引き取る瞬間を迎えられたようです.

 

ちなみに当方が視察したおりに,このおばあちゃんの近しいかたもおられたのですが,その方が,

 

「朝行ったら、ぽっくりなくなってるのが理想なんですよ」

 

と私に語りかけそして,そのまま

 

「ねぇ,そうだよね!」

 

とそのおばあちゃんに語りかけたところ,おばあちゃんは,

 

「ホントそうだねぇ」

 

とおっしゃってられたことをよく覚えています.

 

果たして,そのおばあちゃん,その時に皆がイメージを共有していた「理想」にほぼ沿うような形で生涯を終えることになったのです.

 

森田先生曰く,そのおばあちゃんが亡くなった時,周りの近親者の方々も皆,「泣き笑いながら、満足そうでした」とのこと….

 

個人的な思いで誠に恐縮ですが,僕もこんな風に死んでいきたい,と心底思います.

 

…医療とは畢竟,死に方の問題に直結します.

 

今の生命に関わる医療に従事する医師達に…

… … …(記事全文3,316文字)
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