… … …(記事全文3,969文字)五島の10年以上の浮体式洋上風力の運用実績を通して、我々日本人は実に重要な事を学びました。
すなわち、浮体式の洋上風力発電は、それをベースロード電源に直接活用することは容易ではないとしても、深刻な問題は見当たらず、したがって、石油・天然ガス等の資源の外国依存度(=輸入量)を引き下げる上で、また、今後拡大していく電力需要に対応した供給拡大を図る上で、極めて重要な電力投資となる…という実態が見えてきたのです。
そうした認識から、五島列島では、今運用されている一機の風力発電機に接続する恰好で、「8機」の洋上風力が設置され、約1万6000KWの電力が供給さることが予定されるに至っています(ちなみに、本来ならば、本年2024年1月からその8機が供用開始される予定だったのですが、「コンクリート部材」に関する問題があり、その供用が2年遅延することとなってしまったようです)。
しかし、今の所、9機目、10機目の予定は今の所立っていません。
もちろんそこにあるのは、8機で五島列島の電力需要全てをまかなえるから、という理由ではありません。
本来ならば、五島列島にはより多くの電力需要があるのですが、五島列島の電力需給調整を行っている九州電力では、これ以上の風力による電気には対応できないと判断したのです。
なぜ、そうなっているのか…を考えることは、風力発電の国内における抜本的な拡充を考える上で重要な視点となりますことから、今日はこの点から考え始める事にしたいと思います。
そもそも今回の風力発電は、「一つの独立した発電企業」が行っているものですが、この電気を購入し、それを各家庭等に流していくのは、大手電力会社となります(このエリアでは、「九州電力」という事になります。そしてより厳密に言うなら、そこから2020年に分離独立した「九州電力送配電株式会社」となります)。
一方で、九州電力(配送電気会社)は、風力発電の電力を「購入」するのですが、その購入分と「丁度同じ分だけ」、自前(というより、九電の発電部門)で発電している「火力発電での発電量」を減らさないといけません。
この「事実」を知らない一般の方は多いのではないかと思いますが、そもそも電力というものは、「需要」と「供給」を完全に「バランス」させなければならないのです!(知ってましたか…?)。そうでないと東日本なら50Hz、西日本なら60Hzという「交流電流の周波数」を維持できなくなってしまうのです!
つまり、電力というものは、水道やガスなどとはまるっきり異なっていて、「作ったモノ」を、勝手に垂れ流していればそれでこと足りる…というものではないのです。
そのエリア全体で使用する電気の量を逐次予想しながら、その量と同じ量だけの電気量を発電する、という「神業」を24時間、365日続けなければならないのです!
そんなこと、普通の企業にできるわけがなく、それができるのは、東電、関電、九電等の「大手電力(の送配電会社)だけなのです。
したがって、五島で風がたくさん吹いて風力発電所からたくさんの電気が「大手電力(送配電会社)」の電気系統に流れ込んでくれば(一般論で言うなら)その分、大手電力会社が作っている電力量を(火力発電で燃やす石油や天然ガスを燃やさずに)減らして、その時点での「需要量」に合致する量に「調整」しなければならないのです。
だからハッキリ言って、大手電力(送配電)会社にしてみれば、風力にしろ太陽光にしろ、流れてきたり止まったりするような所謂「再生可能エネルギー」が流れこんでくる(=購入させられる)ことは、「面倒くさい」「鬱陶しい」ことこの上ないわけです。
つまり風力発電所は大手電力(送配電)会社にしてみれば、余計な仕事を増やす「面倒」で「鬱陶しい」代物なわけで、喜んでガンガン買いたい、と思うものではないのです。
っていうかさらに言うなら、もしも風力発電がなければ、大手電力会社の火力発電で作った電気を「販売」し、その分の「利益」を得ることができるにも関わらず、風力発電からの電気を流してあげる体制にすれば、自分たちで(火力発電を通して)作る電気量を減らさざるを得なくなって、その結果「利益」が減ってしまうという問題があるのです!
つまり、その風力発電会社が得られる「利益」は、本来は、その風力発電を流してあげる大手電力会社が、風力発電さえなければ(火力発電からの電力を販売することを通して)得ていたはずの利益を「かすめ取って」いる、という構図があるのです!
しかも、今日ではFIT制度というものがあって…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)