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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

五島列島「洋上風力発電」視察記(その2):洋上風力は、「ベースロード電源」への活用は容易ではないが、耐久性・強靱性・国富流出リスク・漁業阻害リスクについての深刻な問題は見られない。

昨日、洋上風力発電の有望さについて、その発電容量の巨大さ、ならびに現時点の技術水準の信頼性の双方の視点から、各種電力の現状を踏まえつつ論じましたが…

https://foomii.com/00178/20240528140331124648

 

それでもなお、ベース電源になり得るのか、かつ、風車の羽(ブレード)(を含めた発電機)の製造は今やもう、日立や三菱重⼯が撤退してしまったが、それでもなお、外国制の製品を買ってまでして洋上風力を推進することに国是があるのか、という疑念点がある、というお話しをさし上げました。

 

こうした問題意識の下、現在、日本国内にて実際に運用されている唯一の洋上風力発電所に視察に行った訳です。

 

ついてはまず、その発電所の概要を解説いたしたいと思います。

 

■五島列島・洋上風力発電所の概要■

まず、この洋上風力発電所は、海岸からおおよそ5キロ離れた洋上に設置されているのですが、その最大の特徴は、風力発電機が海底に固定される「着床式」ではなく、釣りの「ウキ」、あるいは、盾に細長い「船」の様に浮かぶ「浮体式」であるという点にあります。

 

「着床式」の場合は、設置できるのは陸のごく近くの「浅い海」だけとなりますが、「浮体式」の場合は、洋上ならどこでも設置できるため、設置可能数(つまりは、発電総量)、圧倒的にこの「浮体式」の方が「着床式」よりも多いのです。

 

ただし、今の所日本でこの「浮体式」の風力発電機で実際に商用運転しているものは、ここ五島にしかありません。五島以外の全ての洋上風力は今の所全て「着床式」なのです。

 

ですから、ここ五島での「浮体式」の風力発電機が成功すれば、日本は莫大な電力を、広大な洋上を活用して開発できる一方、「着床式」だけでは、それが全くもって不可能となってしまうわけで、ここ五島での「浮体式」の風力発電が成功しているか否かは、今後の日本のエネルギー戦略を占う上で極めて重要な意味を持つものなのです。

 

さてこの発電機ですが、その所有は五島市で、その運転管理は、この洋上風力発電機を作った建設会社である⼾⽥建設の⼦会社(五島フローティングウインドパワー合同会社)が担います。

 

その供用開始は、今から10年以上前の2013年。

 

当時は政府・環境省の「実証実験」として設置されたのですが、実証期間が終わり、その時点で発電所を廃棄するのではなく、そのまま、五島市がそれを譲り受け、現在では上記のかたちで運営するようになったとのことです。

 

ブレードの長さは40メーター(つまり、直径80メーター)、構造物の洋上部分の高さは大阪の通天閣程度の100メーター、水中部も含めた全長は約180メーター、そして発電容量は2000キロワット(2Mワット)。

 

大型の火力発電所や一般的な原子力発電所では、数十万キロワットはありますから、大型の火力や原発と同じだけの発電をしようとすれば、100~数百基程度の同規模の風力発電所が必要となります。

 

■「ベースロード電源」としての活用には工夫が必要■

さて、当方の第一の懸案事項だった、エネルギー効率の低さですが、やはりベースロード電源を洋上風力に任せるのは(少なくとも単体や小数では)難しいという点は残念ながら認めざるを得ない、ということを改めて認識しました。

 

というのも、エネルギー効率が3割前後と伺っていましたが、その実態がよく分かったからです。視察中にも風が吹けば風車は動き、風が止まれば風車も止まっていました。陸上よりは風は強いとは言え、洋上で「常」に発電に適した風が吹いているというわけではないのです。

 

とはいえ、仮にベースロード電源として活用できなかったとしても、風力発電量が拡大すれば、火力発電の石油や天然ガスの使用量を縮小させる効果があると考えることは可能です。

 

しかも、ここよりも風況の良い場所は有るでしょうし、揚水式ダム等の「大規模な電池機能」と電気系統で接続すれば、ベースロード電源として活用することも可能となりますから、ベースロード電源としての活用が絶対不可能という訳ではありません。ただし、そのためには相当な工夫が必要であることが改めて確認できた次第です。

 

 

■風力発電建設による国富の海外流出は限定的■

次に発電事業の外国企業依存度ですが、確かにブレード部分は外国企業ですが、その基礎部分は、コンクリート構造物になっています。風力発電構造物のおおよそ三分の二が国産であり、外国依存部は三分の一程度、となっています。

 

しかも、こうした全体の三分の一の輸入部分というのは、「初期投資」のものですが、メンテナンスとオペレーションを国内企業が行う限り(実際、五島の風力発電は国内企業が担当しています)、国富の海外流出は限定的であるという点がよく分かりました。

 

 

…以上の二点は、本視察において最も当方が着目していた点でしたが、それに加えて、本視察を通して、以下の様な様々な点も理解できました。

 

■耐久性に極端な難があるわけではない■

ところで、洋上風力において懸案の一つとしばしば言われる、海風に晒され続けることによる「耐久性」の問題ですが、今回の風力発電は、2013年から運用されており、しっかりとしたメンテナンスを行っている限り、少なくとも10年以上、大きな問題は生じていないという点が確認できました。

 

そもそも、この浮体式の洋上風力発電機は…

… … …(記事全文4,327文字)
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