… … …(記事全文3,866文字)(本日、「医療安全心理・行動学会」からの依頼原稿をまとめましたので、ご紹介さし上げます!)
筆者は、第1回医療安全心理・行動学会学術総会の特別講演で「医療安全」に関するレジリエンスについて講述した。医療関係者の医療パフォーマンスを高めるためにも、そして患者の健康・幸福を維持、増進させるためにも、レジリエンスの概念が重要となると考えたからである。
ついては本講演ではまずレジリエンスとは何かを論じた。レジリエンス(resilience)とは、日本語に直訳すれば復元力や弾性となるが、行政や政策論においてはとしばしば「強靱性」と訳されている。すなわち、「あるシステムに対して何らかの外力がかかった時に、そのシステムが被る被害を最小化する能力」がレジリエンス=強靱性であり、一般に「ショック耐性」と「回復力」の二つの要素から構成される。ショック耐性とは、その外力による初期被害に対する抵抗力である。回復力は、被った初期被害を迅速に回復する力を言う。したがって、レジリエンスに着目した諸対策は、ショック耐性のみならず回復力にも着目した概念であり、単なるショック耐性に着目した諸対策(例えばいわゆる「防災対策」)よりも、回復過程も含めた長期的な被害を最小化させることが期待される。
さて、具体的なレジリエンスとして何があり得るのかを考えるには、一体「何の」レジリエンスを考えるのかを想定するのかが必要となる。その点を踏まえるなら、医療安全におけるレジリエンスには、次の二点が考えられることとなる。
1)病院の「医療の質」についてのレジリエンス
2)病院の「利益」についてのレジリエンス
病院(医療法人)はそもそも、患者の健康の増進を図る医療を提供する組織であり、収益最大化のための組織ではない。もしも収益最大化の組織であるとするなら、訪れる患者の健康をあえて毀損するような「医療行為」を行い、その上で自ら毀損した健康を回復するための「医療行為」を行うというマッチポンプの様な手法が可能となるが(それがどの程度現実の医療現場で行われているのかはさておき)、論証するまでもなく、それはいかなる理由があろうとも正当化できない。かくして病院はもちろん、「患者の健康の増進を図る医療を提供する組織」として定義されなければならない。それ故、病院のレジリエンスを考えるにおいては、何よりも重要視されねばならないのはその「医療の質」なのである。
さて、この「医療の質」は…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)