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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

【財政健全化推進本部・古川禎久座長の欺瞞】「馬車を前に進める気を持たない」古川氏が「御者」である限り、日本は確実に地獄に落ちる。

今、岸田総理は、財政を健全化するために、官邸直属の委員会として「財政健全化推進本部」を設置しています。その座長が、自民党の古川禎久議員なのですが、その古川氏が、NIKKEIのラジオポッドキャスト番組「NIKKEI切り抜きニュース」(1/11(木)配信)でお話しされている内容を過日たまたま耳にしたのですが、そのお話しの内容が卒倒しそうになる程に酷い内容でした。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA062750W4A100C2000000/


一言で言いますと、この方に、日本の財政の「御者」(ぎょしゃ=馬車の運転手)を任している限り、日本は停滞・衰退し続け、日本国民には最悪の未来しか訪れ得ないということがハッキリを分かる内容だったのです。

 

彼はまず、次のように発言されているのですが…

 

車の手綱を取る役割が財政。馬の中には社会保障馬がいたり、防衛馬がいたり、あるいは公共事業馬等。時として暴走すれば馬車は転覆。御車は時に応じて手綱をひいたり、緩めたりして馬車を安全に走らせなければならない。これが財政の役割。

 

この指摘はまったく正しい指摘です。

 

要するに財政が拡大しすぎて、それで何らかの「破壊的事象」が起こると大変である(これは、古川氏が「転覆」と表現している事象ですね)、だから、財政を「引き締める」ことが必要な時がある、という指摘はまさにその通りです。

 

しかし、御者は、古川氏が繰り返しているように「手綱を引く」ことだけではなく、「手綱を緩める」ことも求められています。

 

ところが不思議な事に古川氏は、「手綱を引く」という行為の根拠となる「場所の転覆」という危機的事象を避けて「安全な運行」をなすべしという点については言及しているのですが、「手綱を緩める」という行為の根拠となる事象については一切触れていないのです!!!!!

 

当たり前ですが御者は、「前に進む」という目的を持つ一方で、「転覆を避けて安全に運行する」という目的を持つ存在です。だから、安全のために「手綱を引く」一方で、前に進むために「手綱を緩める」のです。

 

とりわけ、他の馬車と「競争」をしている場合には、「安全を確保しながら、できるだけ早く進む」ことを目的とします。

 

つまり、御者としての財政は、支出しすぎて(例えばハイパーインフレになる等の形で)「転覆」するという破壊的事象を避けるのみならず、支出しなさすぎて(例えばデフレやスタグフレーションが続くという形で)「停滞」「衰退」するという破壊的事象を避ける(つまり成長させる)ことが求められているのであり、今日のように激しい国際競争が繰り広げられるグローバル化の時代においては、その必要性はとりわけ重大なものになっているのです。

 

それにも関わらず、古川氏は「安全の必要性」や「ハイパーインフレによる転覆」については言及しているものの「前に進む事の必要性」や「デフレやスタグフレーションによる停滞・衰退」という点については、一切言及していないのです!

 

何という欺瞞でしょう。

 

古川氏がイメージしているのは、兎に角安全「だけ」を確保しようとしていて、前に進めようという意図を持たない御者なのです。そんな御者は手綱を「引く」ことはあっても「緩める」ということはしないでしょうから、結局、その馬車ば「止まって」しまうでしょう。そして、その馬車が「競争」状態に措かれているとすれば、そんな馬車の敗北は確実なものとなるでしょう。

 

この時、馬車に乗っている乗客が、停滞・衰退していたら俺達の暮らしも人生も最悪だ、もっと前に進まねばヤバい、と認識していた存在であったとすれば、激怒する事になるでしょう。そして、そんな御者を「虐待者」や「人殺し」として認識する事になるでしょう。

 

ところが古川氏は、そんな「乗客達」の焦燥や憤怒は、劣悪で危険な「ポピュリズム」に過ぎないと、次のようにレッテルをはりつつ激しく批判するのです。

 「手綱をひいたり緩めたりするときには当然世の中には反発もある。ポピュリストには御車の役割はつとまらない。財政はポピュリストが扱ったらだめ…財政は国民の反発を恐れて良いことばかり言っているポピュリストには務まらない仕事。翻って今の財政はどうだと言ったときに、国民の反発を恐れてなのか、手綱を緩めっぱなし。」

「財政を預かっている政治家が国民の皆さん、ここは国民負担をお願いしますとか、あるいは歳出を削らしてくださいとか、言いにくいことであってもきっちり正面からごまかさずに国民に説明をしてお願いをしてこなければならなかった。我々政治家はそこから何十年逃げてきた。」

 この発言は、彼が「今の政府は手綱を緩めすぎである」「これまで政治家はもっともっと増税し、支出カットをすべきであったのにしてこなかった」と認識していることを意味しています。すなわち古川氏は「今よりももっと手綱を引かねばならない」「もっと増税し、支出カットを拡大すべきだ」と主張しているわけです。

 

では、今の日本はそういう状態なのでしょうか?つまり、古川氏が言う、「社会保障馬」「防衛馬」「公共事業馬」が牽引する「日本という馬車」は「暴走」している状態なのでしょうか?

 

決してそんな事はありません。事態はその正反対の状態にあります。

 

コチラのグラフを見てください。

… … …(記事全文3,408文字)
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