… … …(記事全文3,829文字)能登半島地震の被害の甚さは、時間が経つ毎につれて明らかになってきました。
多くの家屋、ビルの倒壊や木造家屋の密集地域における大火災、津波、土砂災害による直接被害に加えて、道路の寸断による救護、救援の停滞、電気、水道、ガス等のライフラインの寸断による停電・断水等に伴う避難所、被災地の生活上の被害とそれが誘発する「二次被害」の拡大…。
今我々に必要なのは、こうした被害を少しでも軽減すべく、四の五の言わず、徹底的に迅速かつ大規模な救護、救援、そして復旧復興であることは間違いがありません。
しかし、それと同時に、ここまで被害が拡大してしまった、政策的原因がどこにあったのかの「検証」を急ぎ、今後二度と、ここまで被害が拡大しようにするために、一体我々は何をすべきなのかを考える「再発防止」の対策(つまり国土強靱化)が、今、絶対的に必要不可欠であることもまた事実です。
【脆弱性1:建物の「耐震化率」の異様な低さ】
まず第1に、今回ここまで被害が広がった重大な原因は、建物の耐震性の低さです。
今、日本では新しい建物を建てる場合、震度7が訪れても全壊しないようにという基準の耐震性が義務付けられています(新しい耐震基準ということで、耐耐震、と呼ばれています)。
そして、そうした新耐震の基準の建物の割合は今、全国で87%に至っています。
ところが、例えば、今回激甚被害があった珠洲市では、新耐震の建築割合は、わずか51%だったのです。
ちなみに、新耐震の家屋は31.1%しか倒壊しない一方、新耐震化していない家屋は実にその75.5%が倒壊するというデータが過去に報告されています。つまり、新耐震化していなければ、その倒壊率は実に2.4倍にもなってしまうわけです。
そして、全国平均ではもはや今、13%しか耐震化されていない脆弱な建物は残されていない一方、珠洲市では49%ものが脆弱なまま残されていたのです。
つまり、脆弱な未耐震の建物の割合は、珠洲市では全国の3.8倍もあったのです!これが、今回の地震被害を圧倒的に拡大する帰結をもたらしたのです。
【脆弱性2:道路ネットワークの大きな脆弱性】
そして第2に、能登エリアにおける「道路ネットワークの脆弱性」が、震災被害をさらに拡大してしまっています。
そもそも「半島」地形の地域は、特定方向からしかアクセスできない、つまり、アクセスルートが限定的であり、したがって、通常の非半島地域よりも一部の道路の寸断でアクセス不能となってしまうという極めて脆弱な条件を抱えています。それにも関わらず、その限られたアクセス道路が脆弱で、通行止めになってしまえば、瞬くまでに、どこからもアクセスできないという状況となってしまいます。
実際、1月4日現在、輪島市はそのようにアクセス路が経たれ、震災直後から孤立的状況に陥っています。結果、被災者に対する救護救援も、被災者の避難も不能・困難となり、被害はさらに拡大することとなるわけです。
能登半島には「能越自動車道」や「のと里山海道」等の高規格の自動車専用道路は存在しているのですが、いずれの道路も、今回震央となった珠洲市や輪島市等の半島北部地域においては完成(到達)していませんでした。
もしもそれが能登半島の最も被害が大きかった輪島まで完成しており、そして珠洲まで到達していたら、半島の道路ネットワークはもっと強靱であったに違いありません。
実際、北陸自動車道は被災エリアに位置していたにも拘わらず、その他の一般の道路に大きな被害が出ていたにも拘わらずその被害は限定的で、したがって、被災後驚く程迅速に供用開始となり、今も救護救援に大きく役立っています。
したがって高速道路の整備が完了していなかった半島北部の道路ネットワークは著しく「脆弱」な状況におかれていたわけです…この、半島という特殊な地形も含めた当該エリアの道路ネットワークのいわゆる極端な脆弱性が今回の地震被害をさらに拡大してしまったわけです。
そして…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)