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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

【「役立たず」がトレンドワード入り】 能登半島地震に続く空港衝突事故。それらは如何なる意味で人災だったのか…岸田内閣を中心とした国家の真価が今、問われています。
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(下記メルマガ、記事内容ではトレンドワードとして「役立たず」が入っている旨を書いていたのですが、タイトルを付ける際に多数のツイートであわせて使われていた別の言葉を間違って記載してしまっており、大変失礼しました。改めて下記、そのまま全文公開にて再度配信いたします)


能登半島での大地震で年が明けた2024年、翌二日には羽田空港では旅客機が海上保安庁の飛行機と接触を起こし、旅客機が大炎上するという未曾有の大惨事が生じてしまいました。

 

旅客機については全員脱出ができ、人命被害が出ることは避けられた様ですが、海上保安庁の飛行機の乗務員5名が亡くなってしまったとのこと。

 

一方で能登半島地震の死者は時間が経つに連れてどんどん増えていき、3日午前11時現在で公表されている死者数は64人に至っています。

 

多くの方々がそうお感じのところと思いますが、55年間生きてきた当方としても正月早々にこれだけの痛ましい大事故、大災害が起こってしまった過去の例を知りません。

 

現実は容赦なくお正月であろうがなかろうが、誠に遺憾ながら破壊をもたらす時は破壊をもたらすのです。

 

毎年多くの国民が楽しみにしてる2日の天皇陛下の一般参賀も今年は中止となりました。今は災害で亡くなった方々に対する哀悼の意を表し、お見舞い申し上げ、そして、救護救援、復旧復興に全力を賭す努力を重ねることが、今、日本国民として何よりも優先されるべきとのご判断と思いますが、まさに、多くの国民もそうした認識を認識を共有しているものと思います。

 

 

今回の飛行機事故ですが、接触した海上保安庁の飛行機は、能登半島への被災地の救護救援、復旧のために運航が予定されていたものであったとのこと。

 

したがって、今回の地震がなければその運航も予定されておらず、したがってその大事故が起こることもなかったと考えれば、今回の飛行機事故も災害関連事故であり、広義の地震被害の一端と捉えることもできるでしょう。

 

もちろんこの飛行機事故は明らかなる「人災」であり「天災」と別ではあります。ただし災害被害には一般的に、倒壊した構造物の下敷きになる等の形で「直接」的に生ずる被害と、地震によって発生した大量の被災者を支援するために設置した避難所において健康被害が生じて亡くなる等の「間接」的に生ずる被害の二種類があると言われます。

 

これらの内、後者は十分な被災者支援を行っていれば生じ得なかった被害であるわけですから明らかなる「人災」です。ですが前者とて、しっかりとした構造物に「強靱化」しておけば倒壊しなかった筈なわけですから、「人災」というべきものでもあります。したがって、地震そのものは自然現象ですが、「地震被害」というものはその大半が実は「人災」なのです。

 

 

ただし、今回の飛行機事故は、地震災害の文脈とは別に、「航空業界」にとって史上まれに見る極めて深刻な重大事故です。今回の事故は、

 

「一つの滑走路に複数の飛行機が存在してはならない」

 

という、航空管制上の絶対的大前提が崩れる事態が起こっていたが故に生じたものだからです。

 

それがあってはじめて、今回の様な事故のリスクを極限にまでゼロに近づけることができるのでs。

 

だから各国はそれぞれの空港でこの原則が守られ続けられるよう、国力を総動員しつつ細心の注意を払い、全力を賭して空港管制を行っているので、いわゆる「先進国」においては、こういう事故は滅多なことでは起こらない筈であり、そんな事を起こしてしまうような国は「二流の途上国だ」と非難されても致し方なきものと考えられます。

 

ちなみに過去の類似の空港での飛行機衝突事故として有名なのは、テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故。

 

これは、「カナリア諸島」(スペイン領ではありますが、先進国とは)のデネリフェ空港で、1977年、ジャンボ機二機が衝突し、両機の乗客乗員644人のうち583人が死亡するという大惨事でした。

 

少なくとも筆者はこのデネリフェ空港の事故以外で、何百人もの乗客を乗せた旅客機が空港の滑走路で衝突したという事故を存じ上げてはいませんが、それくらいに、今回の事故は「あり得ない」事故だったのです。

 

ちなみにデネリフェ空港での衝突もまた滑走路上のものでしたが、当日は濃霧で、管制が状況を把握できていなかったが故におこってしまった惨事でした。

 

ところが今回はそんな悪条件は全く存在していたわけではなく、管制は通常に機能していた筈、でした。

 

報道によれば、海保の飛行機に対して滑走路手前まで来るように(つまり、滑走路には入らないように)との指示を出しており、したがって、旅客機に対して着陸許可を出したのです。

 

旅客機はその指示にしたがって滑走路に進入したところ、空港には存在していない筈の別の飛行機があり、事故となった、とのこと。

 

まさに前代未聞の事故、です。

 

今回、旅客機側の乗客は全員脱出することができたことは不幸中の幸いでしたが、少しでも何かが異なっていれば、379名の乗客の全員あるいは大半が死亡していても全く不思議ではありませんでした。

 

そう考えると、世界的にみても絶対にあってはならない事故で、実際に、そんな事は少なくとも筆者は耳にしたこともない程に、実際に存在しえない事故、だったわけです。

 

それが我が国で起こってしまったということは…如何に、海保の飛行機が災害対応という非常事態における緊急対応をしていた飛行機だったとはいえ、だからといって「一つの滑走路に複数の飛行機が存在してはならない」という当たり前の原則が破られたことは「致し方ない」「しょうがない」という話しには絶対になりません。

 

つまり、我が国は、安全の確保のための最低限の空港管制を図る能力をもはや、喪失してしまうほどに劣化してしまったのではないかと…思えてきてしまいます。

 

我々国民は被害に遭われた方々の救護と支援を全力を賭すとともに、能登半島地震と、今回の旅客機衝突事故において、如何なる「人災」が繰り広げられたのかを徹底的に検証しなければなりません。

 

どんな人間でも、その人間の真の実力は、その人物が危機に直面した時に明らかとなります。

それと同じく今の日本もその真の実力は、今回の地震と空港事故という甚大なる危機に如何に対応することができるのかによって示されることとなるでしょう。

 

本日のツイッター(X)のトレンドワードを見ますと、「役立たず」が入っています。ツイートの中身を見ますと軒並み、この大災害に対する原稿を読むだけの岸田総理や、入院のために官邸に出勤できなかった林田危機管理監、東京の自宅に帰省していた馳石川県知事が「役立たず」と非難されているようです。

 

こうした国民の気分が真実を反映したものなのかどうか、すなわち我が国は、最低限の危機管理すらできない二流国、三流国に過ぎぬ否かが今、問われているのです。

 


追伸:筆者(藤井聡)へのご意見、ご感想は、このメールアドレス宛てにお送りください。



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