… … …(記事全文3,366文字)今、世間を騒がせている自民党の裏金問題。
各派閥のパーティ収入の一部が「未記載」によって「裏金」化していたわけですが、その中でもとりわけ東京地検の特捜部が厳しく捜査しているのが安倍派です。
少なくとも今報道されている数字だけを取り上げれば、安倍派の「裏金」が最も額が多く、5億円にも上るとも言われています。また、4千万円、5千万円の「キックバックによる裏金化」をしていた安倍派議員も3名もいると報道されています。
しかし、「罪の有無」というものは、そうした「金額の多寡」とは本来無関係な筈です。
ですから、いくら「額」が大きいからといって、安倍派だけが集中的に捜査されているという状況に対して、違和感を感じている方も少なくはありません。
こうなってしまうのは、一般に、今回のような「裏金」問題は、捜査に相当な人員が必要である一方、特捜部にそれだけ十分なマンパワーが無いから、特に「酷い」事案だけ取り上げ、そこに特捜部のマンパワーを集中して「逮捕者」をきっちりあげて、それを通して「見せしめ」にする、という意図があるからだと言われています。
分からなくもない論理ではありますが、我々庶民ならば千円の万引きも、10万円の万引きも、見つかれば必ず警察に逮捕され、牢屋に入れられるのが、常識ですから、納得しきれない側面が多々あります。
何と言っても、逮捕者が出ているのと同じ事をやってる議員や派閥がたくさん存在するのに、額が少ないからといって、その大半がお咎めナシになっているわけですから、そんないい加減な事が許されていいのか、と誰もが思うところだと思います。
ですが、現実は、安倍派が集中的に捜査されると同時に、二階派も捜査されている一方で、それ以外の派閥には、捜査の手が及んでいない様子です。
それは各メディアの報道の仕方にも影響が及んでいて、安倍派は「裏金」問題で岸田派は「未記載」問題とされています。裏金は未記載によって生みだされているのすから、この言い換えには不当な恣意性を感じざるを得ません。
ここで、しばしば報道されているのが、「安倍派が一掃されたことで、政府における経済政策が歪んでしまうのではないか」という報道。例えば、外資系の報道機関であるロイターがそうした記事を配信しています。
現在の自民党の中で、安倍派は「積極財政派」です。その安倍派が集中的に捜査され、力が削がれれば、今後の政策決定プロセスにおいて、旧岸田派を中心とする緊縮派の影響力が拡大し、増税と支出カットが繰り返されることになるだろう、と観測する報道がなされているわけです。
しかも、積極的な財政論を展開する「二番目」の勢力である二階派もまた、捜査の対象になっているのですから、政府の緊縮傾向に拍車がかかることは必至の情勢と考えられます。
こうした状況によって「利益」を得る勢力は勿論、緊縮派。それは政界においては岸田派ですが、政府においては勿論、財務省です。
こうした何らかの政治的な動きの背景を探るにあたって、「一体誰が得をしているのか?」という大局的視点から、その政治的な動きの「意図」を推察する、という事が実践的な政治学分析ではしばしば行われます。
では、この特捜部の捜査で「得」をしている岸田氏や財務省が、実際に、意図的にこうした捜査の流れを作り出したのでしょうか?
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)