… … …(記事全文6,459文字)現下の日本経済は、岸田総理が「経済対策をしなきゃいかん」と口にする程に、悪い状況にあります。じゃぁ、なぜそんなに苦しい状況になってるのかと言えば、「コロナ」が原因なのかといえば、コロナの傷は概ね回復済みであることは昨日解説差し上げた通り。
じゃぁ、現下のインフレが悪いのかと言えば…諸外国ではインフレ率を上回る賃上げが続いており、インフレのせいで実質賃金が下がってきているとは言いがたい状況にあります。
じゃぁなにが悪いのか…この点について、現下のマクロ経済データを見ながら考えて参りましょう。
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まず、GDPのグラフ(図4)を見ると、新型コロナが上陸する直前の2019年の10~12月期にも、おおよそ年率20兆円近くの経済ダメージが生じていることが分かる。
これは、2019年の10月1日に消費税率が8%から10%へと2%、増税されたことによる経済被害を意味している。
つまり我が国は、2019年10月の消費増税と、2020年3月の新型コロナ上陸の「ダブルパンチ」によって、年率560兆円程度であった実質GDPが実に60兆円も縮小し、500兆円程度にまで下落してしまったのである。
ただし、このダブルパンチの巨大被害は、少なくともこの実質GDPのグラフを見る限り、ここ1年間の急速な「成長」によって、おおよそ全て回復したように見える。消費増税直前の2019年7~9月期の水準に、最新の値がようやく追いついた格好となっているからである。
では、本当に、日本経済はこの増税&コロナのダブルパンチ前の状況に回復したのだろうか?
この点を確認するために、増税直前の2019年7~9月期と、現在(2023年4~6月期)の、(図6に示した)各種マクロ統計値を比較してみることとしよう。
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GDP 消費 投資 輸出 輸入
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消費増税直前
2019.7-9 557.4兆円 304.8兆円 93.4兆円 104.6兆円 105.6兆円
現在
2023.4-6 558.6兆円 295.6兆円 90.5兆円 110.1兆円 105.5兆円
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成長率 0.2% ―3.0% ―3.1% 5.2% ―0.1%
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図6 日本における総費増税直前および2023年現在の実質マクロ経済統計値
ご覧の様に、GDP(実質値)は、消費増税直前期に比べて現在の方が、「0.2%」という僅かな水準ではあるものの、幾分高い値となっている。
では、この「プラス成長」は何によってもたらされたのかを、各指標の成長率に着目して考えてみると、消費や投資といった「民間の内需」が成長しているわけではないことが分かる。それぞれ3.0%、3.1%ずつ「下落」しているからである。
これはつまり、我が国経済は、「消費増税前」に比べて圧倒的に「内需」がしぼんでいることを示している。具体的な金額水準で言うなら、消費は9.2兆円もへこんでしまい、民間の投資も2.9兆円縮小し、合計で12.1兆円も縮小しているのである! この内需の圧倒的な縮小こそ、ミッチェル教授と当方が2022年時点で指摘していた「強烈なデフレ圧力」の実態なのである。
一方で、貿易関係については、輸入は横ばいであるが、輸出は5.2%、水準にして5.5兆円増加している。この輸出の増加によって、内需が12兆円以上も縮小しているにも拘わらず、かろうじて、若干のプラス成長がもたらされる結果となったに過ぎないのである(ちなみに、増税前に比べて政府支出が、主として「政府最終消費」において増えているため、今日の若干のプラス成長は、円安による輸出の増加と政府最終消費の拡大、という日本経済の実力とは無縁のものによってかろうじてもたらされたのである)。
したがって、現状における「実質GDPの回復」は単なる見かけ上のものであって、本来的に日本経済が回復したとは到底言えない状況にあるのである。
ところで先程、コロナショックの傷はおおよそ癒えた、という事を指摘したが、この点を踏まえるなら、今日みられる内需の縮小、および、それに伴う経済、ひいては賃金の低迷は、コロナショックではなく、10%への消費増税によってもたらされたものだと結論づけることができることとなる。つまり、今から約4年前の消費増税直前期から、約9兆円の消費が減り、約3兆円の投資が減り、あわせて約12兆円もの内需が縮小したのは、消費税増税による影響であると考えざるを得ないのである。
■■現在の日本経済低迷の諸悪の根源は「消費税増税」である。■■
多くの国民が実感しているように、今日、我々の暮らしが苦しくなってきている。そしてその原因は、直近ではウクライナ戦争や円安に端を発する「物価高」が原因の様にも見えるし、記憶に新しいところでは「コロナショック」であるかのようにも思えてくる。しかし一つ一つデータをゆっくりとひもといていくと、2019年10月の消費増税こそが、最も根源的な原因であることが見えてくる。
そもそもコロナショックは、コロナがやってきてから3年半の年月を通しておおよそ回復している。その一方で、2019年の消費増税によって内需が12兆円規模で縮小してしまっている実態がある。そしてその内需縮小の結果として、海外要因・為替要因でもたらされたインフレの中で、国民全体が実質的な「貧困化」の圧力にさらされるに至った。
ただし、ミッチェル教授と当方が指摘した、我が国に残存する強烈な「デフレ圧力」は、何も2019年の消費増税によっていきなりもたらされたものではない。「失われた20年」という言葉があるように、そのデフレ圧力は20年以上前の1990年代から一貫して存在しているのが実情だ。
既に、ミッチェル教授との対談で述べたように、そうしたデフレ圧力をもたらした最初の契機は1997年の消費増税である。
この点を明らかにするために、ここで、日本人の「消費」が、如何に消費増税によって激しく縮小してきたかを示したい。
まず、その点を確認する前に、消費というものが、マクロ経済にとってどれほど重要であるかを簡潔に解説しておくこととしよう。
そもそも日本のGDPに占める消費の割合は、おおよそ五割五分から六割程度の水準にある。そして、消費が増えればそれに伴って民間はその拡大した消費に対応するために投資を行う事になることから、投資も拡大する。逆に言えば、消費が縮小すればそれにあわせて投資も縮小する。さらには、日本の様にプライマリーバランス規律を導入している状況では、投資や消費が拡大し、それによって税収が増えればその分、政府支出が拡大する。したがって、消費が拡大すれば、民間投資のみならず政府投資、政府消費も拡大することになるのである。一方で、消費が縮小すれば、民間投資も政府投資も政府消費も皆縮小することになる。つまり、消費というものは、日本経済の動向を決定づける最大の鍵なのである。
さて、図7は、その日本経済の成長衰退の最大の要である消費の、1994年から今日に至るまでの消費(実質値)の推移を掲載したものだ。
概して言って、消費は、1994年以降、一貫して伸び続ける傾向を持っている。1994年当時、250兆円弱であった消費は今日、300兆円程度にまで伸びてきている。
しかし、過去30年の間、何度も何度も、「冷や水」をあびせかけられるように、縮小させられてきていることがわかる。その代表的なものが、
・リーマンショック
・東日本大震災
・コロナショック
の三つであるが、これと同様に、
・5%消費増税
・8%消費増税
・10%消費増税
もまた、伸びよう伸びようとする消費に対して、強烈な「冷や水」を浴びせかけてきたことが分かる…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)