… … …(記事全文2,629文字)ミッチェルさんとの共著に向けて、とりまとめている現時点における日本経済の「診断」文書。昨日からまた、さらにデータをまとめたり、分析したりしながら、書き進めましたので、その一部、ご紹介差し上げます!
【賃金がさして上がらないのにインフレが進み、国民が貧困化する】
一部の「お金持ち」を除けば、ここ最近、自分たちの暮らしが経済の点からいって良くなってきたと感じている国民は限られている筈だ。給料は上がらないのに、電気代、ガソリン代をはじめとしてあらゆるモノが高騰してしまっている。
一方で、ニュースでは「賃上げ」が徐々に進んでいるという話しを耳にする方もおられるであろう。
事実、図2に示したとおり、ここ最近、確かに我々の賃金は「マイナス」でなく「プラス」の勢いで推移している。賃金が全く伸びず、むしろ下がり続けた完全なるデフレ状況では考えられないような望ましい傾向だ。
しかし、この図2に改めて掲載した物価上昇率と比べれば、ほぼ常に一貫して物価上昇率の方が賃金の上昇率よりも高くなっている。このことは、私達の賃金は、見かけ上は上がってきているようには見えても、「実質的」には、上がるどころかむしろ下がり続けていることを意味している。つまり、日本国民は今、このインフレの中で着実に「貧困化」しているのである。
したがって、多くの国民がこのインフレをあくまでも「きつい」ものとして認識しているのは、至って当然のことなのである。
図2 物価上昇率と賃金上昇率(前年同月比)
【日本国内の濃密な「デフレ圧力」のせいで、日本のインフレ率は世界的に見れば著しく低い】
しかし、物価上昇率を遙かに凌ぐ程に高い水準にある日本の物価上昇率であるが、それは世界的に見れば極端に低い水準に過ぎない。図3は、世界の約200カ国の2022年の(年間平均)物価上昇率であるが、ご覧の様に、日本は最も物価上昇率の低い一握りの国々の一つに過ぎない事がわかる。
2022年、世界は平均で13%もの割合で物価が上昇していた。これは、このままのインフレが5年も続けば10年足らずで物価は2倍になる、という凄まじい勢いだ。それに比べれば、日本の2.5%というのは、5年経ったって、物価は15%しか上昇しない位の、世界に比べれば極めて弱々しいインフレである。
日本のインフレ率がここまで低いのは、昨年、ミッチェル教授と語り合ったように、日本経済そのものには未だ「デフレ」基調が濃密に残っているからに他ならない。つまり日本においては、世界中で石油やガス、そして小麦などが不足し、価格が高騰しており、しかも、凄まじい勢いて伝安が続き、輸入品全ての価格が激しく高騰しているにも拘わらず、肝心の日本国民の賃金がほとんど伸びておらず、日本人による日本国内における消費や投資が伸びず、それによって強烈な「デフレ圧力」が日本国内に残存する格好となり、インフレ率を世界最低水準に引き下げている、という次第だ。
図3 世界各国のインフレ率(2022年年間平均値)
【コロナショックによる経済被害は、概ね回復した】
では、この日本国内に残存する強烈な「デフレ圧力」は何故に存在するのであろうか?
一つ考えられる原因が、2020年から猛威を振るった「コロナ不況」だ。
2020年3月から第一波が訪れた新型コロナに対応するために、日本政府は緊急事態宣言やまん延防止措置等を繰り返し、日本経済が激しく傷ついたのは、記憶に新しい。
図4は、ここ最近(2016年以降)の我が国の実質GDPの推移だ…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)