アメリカで中間選挙が行われ、下院で共和党が過半数を制する局面となった。事前の予想どおりの結果であり、共和党が4年ぶりに下院の多数を奪還し、ねじれの政治権力の構図が現出する。アメリカ政治はタカ派色が強まり、対中国強硬姿勢がいちだんと過激化する進行が予想され、東アジアでの戦争はさらに現実味を濃くする緊張の段階へ進んでいる。選挙の争点として第一に高い関心が集まったのはインフレ問題で、物価高に苦しむ人々の民意が政権与党への批判となり、野党を後押しする投票行動となったと総括されている。この結果は、今年6月に行われたフランス議会選挙と同じパターンだ。 選挙の終盤になって、急にマスコミが焦点を当てて浮上したのが、アメリカの「ウクライナ支援疲れ」の問題である。欧州でその気分が蔓延している現状は、ネットに上がる反NATOのデモの情報によって確認できていたが、アメリカでもその兆候が発生している事実は、今回の報道の中で初めて知った。11/8 の報ステの取材映像で、ブライトン・ビーチの「リトル・オデッサ」に住むロシア系移民男性が登場し、ウクライナへの軍事支援を減らして国内の用途に使うべきだと意見を述べていた。アメリカ国内にも欧州と同じ世論が存在し、その要求を反映するように議員たちが主張を上げている。 ■財政負担の増加 その最も有名な例が、共和党院内総務のマッカーシーの「ウクライナに白紙小切手は出さない」という発言で、日本のマスコミで大きく取り上げられた。他にも自国第一を強調するトランプ寄りの極右議員の中で、この主張をする者が何人かいる。また、民主党の左派議員もバイデンに対して書簡を発し、対ロシア休戦協議を促していて、その背景にインフレと戦費支出増の問題があり、「ウクライナ支援疲れ」の民意がありることが察せられる。欧州でもその政治の事情と構図は同じで、物価高を政府に抗議し、停戦を求めてNATOに抵抗し、ウクライナへの武器援助に反対する市民デモは、右派と左派の両方から起きている。 アメリカのインフレは高止まりしていて、率が7%台に下がったもののまだ暫く続くものと予想されている。FRBも政策金利は現在より上げると言明している。アメリカのインフレをもたらした要因として、コロナ対策や環境エネルギー政策に投じた巨大財政支出が槍玉に挙げられていて、サマーズなどがその批判の論陣を張ってきた。アメリカのウクライナへの支援額を見ると、3月に136億ドルの予算を議会で可決し、5月に400億ドルの追加予算を成立させている。合計536億ドル。日本円で7兆8400億円。イラク戦争の戦費3兆ドルと比較すると規模は小さいが、これがさらに1年2年と嵩んでくると、財政圧迫の要因になるのは確実で、共和党議員から指弾が入るだろう。… … …(記事全文4,729文字)