■ゴルバチョフの死に際して日本共産党が沈黙している。しんぶん赤旗にも記事がない。志位和夫のツイッターにも何も発信がない。黙して語らず、見ざる言わざる聞かざるを決め込んでいる。ネットで情報を探すと、8月31日に穀田恵二が会見で対応した動画があり、右翼が揶揄的に編集して上げていて、それを見ると「沈黙」の意味が了解できる。「覇権主義を踏襲したソ連共産党の中心人物であった点を思い浮かべます」と言っている。簡単に言えば、日本共産党にとってゴルバチョフは面倒な人物であり、論評は避けて通りたいのが本音なのだ。意義づけを論じ始めると自家中毒になるからである。 日本共産党は、ゴルバチョフとの関係において脛に傷を持つ身なのだ。一般的には、世界はゴルバチョフの功績を賞賛している。冷戦を終結に導いた偉大な政治家だと讃え、ソ連・東欧の暗黒に自由と民主主義の風を吹き込み、20世紀の歴史を大きく変えた巨人という評価になっている。この認識と意義づけは普遍的で不滅のものだろう。だが、その積極的評価を言う前に、ネガティブな評価を言う一部がいる。その代表が中国共産党だ。環球時報英語版は、ゴルバチョフを「西側諸国の制度をむやみに『崇拝』してソ連の独立性を失った」と批判、「社会主義を壊した反面教師」という規定を与えている。 ■実は、日本共産党のゴルバチョフ評価は、この中国共産党のゴルバチョフ批判と中身が同じで、「社会主義の裏切者」という規定が基本的に維持されている。つまり中国共産党と見方が同じなのであり、同じ思想的基準からの糾弾をゴルバチョフに加えてきた過去があるのだ。その認識をこれまで変更しておらず、だから、追悼時に不都合なのである。死に及んで、公式な評価を言挙げすることができず、口籠らざるを得ないのだ。日本共産党がゴルバチョフをどう叩いてきたかは、資料がネット上にあり、動かぬ証拠が残っている。1991年の「ソ連共産党の解体にさいして」の声明を抜粋しよう。 -------------------------------------------------------------------------------- 一九八五年にソ連共産党書記長となったゴルバチョフも、従来の大国主義・覇権主義の立場を無反省のままひきついだ。とりわけ重大なのは、ゴルバチョフが「新しい思考」の名のもとに、人民のたたかいを否定し、帝国主義者に不当な期待をよせて無原則にそれを美化する態度をとり、それを世界の人民の運動におしつけたことであった。社会発展の原動力としての人民のたたかいの意義を否定する、「レーニン死後最大の誤り」というべきこの未曽有の謬論の大国主義的おしつけは、世界の平和と進歩の事業にたいして広範な破壊的影響をおよぼした。… … …(記事全文5,089文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)