■ペロシ訪台を機に起きた中国の軍事演習と台湾周辺の緊張について、客観的な立場からの報道や解説がない。テレビに出て発言するのは宮家邦彦や小野寺五典のようなグロテスクな右翼ばかりだ。日本のマスコミで公論化した中国叩きの口上を垂れ、中国との戦争のための準備を整えよと扇動する結論で終わり。不信と憎悪を刺激的に畳み込む準戦時モードの言説が流される。今週は、原爆の日(8/6・8/9)と終戦の日(8/15)の中間の日程で、本来ならこの国が最も平和主義の思想に包まれ、国民が反戦への誓いを新たにする時間帯だった。 一年中で最も暑いこの時期に、一年中でたった一度だけ、保守を含めた市民全体が憲法9条の理念に接近する。日本国の基本と原点について思い知る。ジブリ映画『火垂るの墓』が茶の間に流される。だが、今年は全くそうなっていない。10日に改造内閣を立ち上げた岸田文雄は、あろうことか新内閣を「有事に対応する政策断行内閣」と銘打った。有事とは、「戦争や事変など、非常の事態が起こること」の意味である。岸田文雄の「有事」が「台湾有事」を示唆しているのは明白で、中国との戦争に対応すると宣言している。 ■この内閣は中国との武力衝突の事態に備えた内閣だと、組閣発表時に首相が自ら内外に宣告した。前日に長崎平和祈念式典で、「恒久平和の実現に向けて力を尽くすことを改めてお誓い申し上げます」と述べたその口と舌で、新内閣は有事対応内閣だと言い放った。この欺瞞と厚顔に対して、マスコミは何も掣肘するところなく見逃している。「有事内閣」の不吉な語を捉えて批判しようとしない。マスコミもまた岸田文雄と同列にあり、中国との戦争を必然視し、それへの構えを国家の必須の課題とする立場だから、そこに何も違和感はないのだ。 通常、自民党政権は1年の年限で改造をする。それが慣例の行事で、秋国会前の9月にオーガニゼーション・チェンジを行う。大臣の任期は1年で、派閥がポストを議員に年功順送りで与えて行く。待機組が初入閣する。この第2次岸田改造内閣も、期限は1年である。政権が安泰であれば、来年9月に改造して新たな内閣に移る。ということは、今回のキャッチコピーの「有事に対応する」は、今後1年のこの内閣の任務と目的を言い上げたものだ。すなわち、この1年間で対中戦争への態勢整備の断行が目論まれている意図が分かる。 ■不思議で不満なのは、ペロシ訪台と中国軍事演習の緊張について、右翼以外の論者から発言がないことだ。例えば、田岡俊次や前田哲男などのリベラル系の軍事評論家である。80歳と83歳。二人とも高齢で体力がないのだろうか。私も高齢者に仲間入りする年齢となり、長い記事を瞬発的に書き上げる体力がなくなった。80歳と83歳の人に無理をお願いするのは酷のようにも思われる。が、二人より若い世代を探しても、適当な候補が思い浮かばない。統一教会問題で彗星の如く登場した鈴木エイトのような人材が、対中関係や台湾有事の論評で出現してくれないだろうか。… … …(記事全文4,346文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)