■4月に放送されたプライムニュースの中で、東野篤子が、EU議会が2019年に採択した第二次世界大戦の新しい歴史認識について触れていた。今回のウクライナ戦争ときわめて密接に関係するイデオロギー的契機であり、まさに核心をなす重大な思想的問題である。「ヨーロッパの未来のためのヨーロッパの記憶の重要性」と題された決議だ。日本では広く知られておらず、紹介も議論もほとんどされていない。したがってネットの中に知見となる十分な資料もない。手探りで調べ始めたところだが、正直、恐ろしい思想的事実の前に衝撃を受けている。 簡単に言えば、EUは第二次世界大戦の歴史認識を変え、「ファシズムvs反ファシズムの戦い」として総括していた歴史を、「二つの全体主義の戦い」として新しく定義し直した。従来は、ファシズムの暴虐と侵略に対して、自由主義と社会主義が反ファシズムの連合を組んで戦い、ファシズムを打倒して正義を実現した戦争だった。それが変わり、ファシズムと共産主義の二つの全体主義が覇権争いして衝突し、自由で民主主義的なヨーロッパの国々と人々が難儀を蒙った不幸な戦争、という物語に転換した。正義が勝った戦争ではなくなった。恐るべき歴史修正の前に唖然とする。 ■フランスのレジスタンスはどうなるのだろう、スペインの人民戦線は、イタリアのパルチザンは、チトーとユーゴのパルチザンの意義はどうなるのか、何でEUはこのような反動的な歴史決議を上げたのだろうと、目眩を覚える。欧州の左翼は反対しなかったのか。EU議会にも議席を持つはずの欧州の左翼にとって、決議は存在意義の否定そのものではないか。単に欧州左翼の自己否定だけに止まらない。欧州の戦後史の書き換えであり、反ファシズムの勝利を礎に現代EUへの歩を進めたという、欧州全体の自画像・自己認識の否定と改竄である。 はたと気づくのは、東アジア(日本)で25年前から進行して遂に全体を覆った歴史修正が、タイムラグを置いて欧州でも発生し、全体化・常識化してしまったという絶望の現実である。25年前、靖国は闇の中の異端だった。25年後、南京大虐殺は幻で、従軍慰安婦はビジネスだったという歴史認識になった。第二次世界大戦はコミンテルンの陰謀による戦争で、日本と米国は操られて戦わされたのだという話になり、中国大陸の共産主義者を駆逐・撲滅するために戦った日本は正義であるという話になった。極右の歴史解釈が正統の認識として定置した倒錯の状況にある。… … …(記事全文3,944文字)