□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2013年3月4日第159号 ■ ============================================================== 日本企業を衰退に追いやった日米半導体交渉の教訓 ============================================================== 企業の浮沈の責任は第一義的には企業にある。 それが自由主義経済の競争原理である。 しかし逆は必ずしも真ではない。企業がいくら頑張っても政治が企業の足を引張ることがある。 おりしもTPP参加を決断した安倍政権を待ち受けるのは米国の日本市場開放圧力である。 しかも米国はTPP交渉の前に日本との二国間交渉で攻勢をかけてくる。 二国間経済交渉になれば日本の一方的に譲歩に終るのが常だ。 その結果日本の産業はどうなるのか。 その答えを3月3日の日経新聞「日曜に考える」の特集記事が見事に教えてくれている。 その特集記事は1980年代の日米貿易摩擦の中で取り交わされた日米半導体協定(1986年)が我が国半導体業界を衰退に追いやった事を要旨次のように解説してくれている。 「なあ、数値目標を認めてやってくれよ。役所も、もう抵抗できないと言っている」 これは1986年6月に当時の通産大臣であった渡辺美智雄(註:みんなの党渡辺喜美代表の実父)が赤阪の料亭で日本電子工業振興会の関本忠弘会長(NEC社長)に懇願した言葉だという。 日本の半導体メーカーは価格競争力を武器に世界シェアを高めて行った。 それをダンピングとみなした米国は通商法301条に基づく制裁をちらつかせながら日本国内における海外製半導体シェアの数値目標設定と、日本メーカーのコスト構造の開示の二つを求めた。 これに対して関本会長は次のようにこの要請を一旦は断った。 「いいや大臣、こっちは一生懸命作って一生懸命売ってるだけだ」 しかしこれ以上日米交渉がこじれれば日米関係を損ねることになると粘る渡辺通産大臣に関本は折れた。 「大臣、ズボンは下してもいいが、パンツは脱ぎませんよ」 つまり数値目標は受け入れるが手の内が筒抜けになるコスト構造開示の要求は受け入れない、という意味だった。 日経の特集記事は続ける。 こうして米国に譲歩した日本は、少なくともその時点では政府も業界も、米国に譲歩して結んだ日米半導体協定が日本半導体産業の重大な足かせになるとの認識はなかった。 日本製は世界市場の8割を占め、米メーカーとは雲泥の差がある。多少のハンディで埋まるような差ではないというおごりがあった。 しかし米国の圧力で結ばされた日米半導体協定によって日本のメーカーは協定で定めた「最低価格」以下での販売が出来なくなった。 その結果、官僚や経営者の目の届かない開発・生産の現場では「協定」の副作用がじわじわと広がっていた。 「殴るな」と言われたボクサーのようなものだ。そう言って苦悩する日本の半導体業界を尻目に「最低価格」に縛られない韓国、台湾のメーカーが日本の半導体技術者に急接近してきた。 「殴るな」と言われて不遇を囲っていた日本の技術者が次々と海外に渡った・・・ 日経の特集記事はこう締めくくっている。 いま起きている出来事には出発点があるのだと。 日米半導体交渉から30数年たった今再び、「あの時が出発点だった」と後で気づくTPP参加の誤りを繰り返そうとしている(了)。 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください。 ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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