□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2013年3月2日第154号 ■ ============================================================== TPPに関する伊藤元重東大教授の発言の自己矛盾 ============================================================== 政府の経済財政諮問会議の議長を務める伊藤元重東大教授は1日、都内で行われたシンポジウムで講演し、TPP抜きでは日本の成長戦略を考えるのは難しく、TPPへの参加で日本の国内総生産(GDP)が10兆円程度増加するというばら色の試算を紹介したという(3月2日読売)。 しかし果たして伊藤教授はその時の講演できょう3月2日の産経新聞「日本の未来を考える」という自らの論説で述べている危惧について、その講演で語ったのだろうか。 伊藤元重教授は「通商ゲーム、ルール変わる時」と題するその論説の中で要旨次のように書いている。 すなわちTPPだけで世界の通商システムが動いているわけではない。米国はTPPと並行してEUとの経済連携協定の交渉を始めることを模索している。米国とEUはともに先進工業国であり関税は低い水準にある。交渉の重点は関税撤廃以外のサービス、人の移動、投資、政府調達、安全などに関する規制撤廃である。もしこれらの多くの分野で米欧が協定をまとめることができるとしたら、そこで決まった事は世界標準の先駆けとなる・・・ こう書いた上で伊藤元重教授は世界の通商ルールはWTOから米国や欧州などが参加する大国間の経済連携協定に移りつつある。日本がTPPの交渉に参加していくべき大きな理由の一つは、交渉のインサイダーとして参画していくべきだからだ、と。 つまりルール作りに参加しないと不利になると危惧しているのだ。 そこまではいい。 しかし日本が米国と交渉し、あるいは欧州連合と交渉し、ルール作りに対等に渡り合えるとでも思っているのだろうか。 これまで対等に交渉できた多国間交渉の場であるWTOの効用をなぜ言わないのか。 彼は続ける。 「20世紀の後半、世界の通商ルールの基本は、GATT(関税と貿易に関する一般協定い)、WTO(世界貿易機関)で決まった。日本もそのメンバーとして、自由な貿易ルールの恩恵を享受してきた。しかし、21世紀に入りWTOの不調が続く中で、世界の通商ルールは米国や欧州などが参加する大国間での経済連携協定に影響を受ける面が強くなってきている。日本がTPPの交渉に参加していくべき大きな理由のひとつは、交渉のインサイダーとして通商ルールの策定に参画していくべきだからだ。日本がEUとの経済連携協定の交渉を進めていくべき理由もここにある。そして米国と欧州の間の交渉の行方にも強い関心を持たなくてはいけない・・・」 この伊藤教授の論説には矛盾が隠されている。 伊藤教授みずからが認めるように、日本が経済成長を享受し得たのはGATTやWTOの下における最恵国待遇という名の無差別自由化原則があったからだ。そしてその原則の下における様々な例外措置の恩恵を受けてきたからだ。 なぜそれを今後も日本は重視しないのか。 なぜWTOは不調になったのか。 WTOが不調になって日本はどこが困るというのか。 みずからつくったGATTとその後継であるWTOでは、参加国が増え、そのほとんどが開発途上国ばかりになり、そしてそれらの国の声が強くなって自国の国益が実現できないと考えた米国は、WTOを見限って保護主義に基づく地域経済連携に走った。 それがNAFTでありAPECでありTPPでありこれから始まる米欧経済連携協定なのである。 地域経済協定では強者が有利に決まっている。 強者に都合のいいルールが出来上がる。 日本がGATTやWTOで裨益し得たのはそれが世界の多数の国々による一国一票の交渉だったからだ。 それを嫌った米国が自国の利益を優先するのがTPPだ。 欧州諸国はいまや欧州連合という強大な経済共同体を作った。 米国と並んだ一大経済勢力だ。 それにくらべてアジアにはそれはない。 そこにつけ込んで、みずからに都合のいいアジアの経済的ルールづくりを行なおうとするのがTPPだ。 伊藤教授がそれを知らないはずはない。 そして日本が米・欧のルール作り交渉に対等に参加できるはずが無い事を知らないはずは無い。 おまけに日本は日米同盟という対米従属国だ。米国の言うままだ。こんな交渉で日本が何を勝ち取れるというのだろうか。 伊藤教授がそれを知らないはずはない。 知っていながら日本が不利になる事は語らずばら色の事ばかりを強調するのだ。 伊藤教授の学者としてのこれまでの功績は知らない。 しかし政府の経済財政諮問会議の議長におさまってこのような政府に都合のいい言説を繰り返す伊藤教授は、もはや国民をたぶらかす御用学者の最右翼である(了)。 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください。 ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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