□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2012年6月5日第435号 ■ ============================================================== 保阪正康氏の唱える1:1:8の法則に思う ============================================================== 私が昭和史について多少なりとも知識を持つようになったとすれば、 それは保阪正康氏の労作に負うところが大きい。 その保阪氏が6月4日の毎日新聞「昭和史のかたち」という寄稿の中 で、なぜ自らが生き証人の聞き取り調査に基づいて昭和史を再現する 作業に没頭するようになったかの理由を書いている。 保坂氏は言う。 昭和には人類史が体験したすべての史実(戦争、勝利、敗戦、占領、 被占領、テロ、クーデター、革命騒動、飢えと飽食)が詰まっていると。 だから自分は昭和の史実解明を始めることにしたのだと。 そしてここからが彼の真骨頂である。 そのような大きく複雑な昭和史を、単純に「日本軍国主義がアジアを 侵略した」とか「日本帝国主義とアメリカ帝国主義の対立」といった 大枠を前提に議論されがちであることに、奇妙な焦りを覚えたという。 兵士はどのような気持ちで鉄砲を担ぎアジアの国々に入っていったか。 行き先も告げられずに南洋の戦場で餓死した兵士の胸に去来したのは 何か。 特攻隊の本音はどこにあったのか。 驚くほど悪名の高い東條英機の実像はどのようなものであったのか。 当時編集者だった保坂氏は、ある大学の研究者に歴史の当事者の証言 を残す必要性を訴えて話を持ちかけたところ、「それはジャーナリズム の仕事だ」と一蹴されたという。 ならば自分でその作業に挑戦してみようと思ったのが今に至った理由 であるという。 私はこの寄稿でその事をはじめて知った。 昭和の事件の本質や人物像を求めて、保坂氏は述べ約4千人、実数では 2千3百人ほどの人に話を聞いて来たという。 その作業の積み重ねの上に我々は昭和史の真実に少しでも近づくことが できるのだ。 しかし私が彼の寄稿の中で特に興味を持って読んだのは以下の部分だ。 ・・・このような体験を通して、多くの事を学んだ。あえて一つ挙げる とすれば、人は自らの体験を語る時に、事実か否かの比率は「1対1対8」 だと理解した。はじめの1は正直な人・・・次の1ははじめから虚言を弄 するタイプ・・・残りの8は、つまり我々そのものである。我々は記憶を 美化したり、ゆがめたり、更に都合の悪いことは忘却したりするのだが、 それは生きていくための知恵でもある・・・ そして彼は次のように結論づける。 「戦死者に責任を押しつけようとするタイプ、まったく虚偽の史観を垂れ 流しているタイプの証言に私たちはもっと敏感にになっていい。誠実な 証言者は、職業、年齢、社会的立場に関係なく、人間としての高い倫理観を 持っている」、と。 もちろん保坂氏は、我々は後世の者たちのために、その一割を目指さ なくてはならないと言っているのである。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください。 ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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