□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年11月16日第804号 ■ ============================================================= 官僚たちのつまらない権限争いがTPP交渉を混乱させている ============================================================= 枝野経済産業大臣は11月15日の閣議後の記者会見で、省庁横断的 なTPPチームをつくる必要性を野田首相に提案する事を明らかにした という。 それがうまく機能すればもちろん好ましい。 しかしその保証はまったくない。 それどころか枝野大臣の提案が実現することすらおぼつかないだろう。 その理由を書く。 そもそも対米交渉は長年の間、外務省が「外交一元化」の名の下に取り 仕切ろうとしてきた。 ところが対米経済交渉となると経済産業省(旧通産省)をはじめとした 関係省庁が各分野を握っている。 国内産業界に監督権も指導力もない外務省は事実上取りまとめ役しか できない。 とくに米国が包括的交渉を始めるようになってからは外務省の出る幕は 限りなく小さくなっていった。交通整理だけでアップアップなのだ。 それでも外交一元化は譲れない。ましてや外務省は日米安保条約を担当 する省である。日米同盟だけは手放せない。 そこで不毛な権限争いが繰り返されて来た。 特に経済官庁の中でも経済産業省は外務省のライバル官庁だ。他省庁を 差し置いて対米通商外交の主導権を外務省と争ってきた。 その典型例が橋本龍太郎と河野洋平の首相争いをめぐる戦いだ。 橋本龍太郎が通産大臣で河野洋平が外務大臣であった1990年代の はじめの時だった。 どちらが首相になるかで熾烈な戦いが繰り広げられた。 その時通産官僚は橋本龍太郎通産大臣を総理大臣にし、その暁には橋本 総理の下で通産省が天下を取る戦略があった。 国内政治に弱い外務省はそのような戦略を欠いたまま河野洋平を支える ことができず橋本龍太郎が首相になった。 そもそもAPECは通産省が自分たちが主導権を握るために豪州と組ん で考えだした通商外交の道具だったのだ。 そんな経済産業省も外務省も、決して勝てない省がある。 それが米国金融資本主義と手を組んでいる財務省(大蔵省)である。 財務省には東大法学部、国家公務員試験のトップが行くところだという 自負がある。 予算を各省に配布する権限を持っている。 国税庁を握っている。 あらゆる意味で官僚組織のトップに君臨する。 世銀・IMFをはじめ国際金融機関を掌握している。 為替介入権は財務省の専権事項だ。 おまけに防衛庁が防衛省に格上げされ、自衛隊の海外派遣が恒常化し、 日米安保を決めるのは事実上自分たちだと言い出し始めた。 TPPはこれらすべてが絡んでくる。 とても外務省がひとりで取りまとめられる仕事ではない。 しかしどの省庁とも責任をもって米国と渡り合う能力も覚悟もない。 ましてや政治家のなかに米国と渡り合えるものはひとりもいない。 どうしても対米外交は日米同盟「命」の外務省に頼らざるを得ない。 外務省は国内よりも米国に顔を向けっぱなしだ。 絶対的に米国に服従する省庁だ。 そんなお粗末な実態が見事にあらわれたのが、TPP参加表明をめぐっ て表面化したすべての品目・サービスを交渉対象とするかしないかの ドタバタ劇だ。 野田首相はすべてを外務省に任せきりだからこのようなことが起きる。 野田・オバマ会談の前に枝野経済産業大臣が米国のTPP担当大臣と 会談したりするからこのような認識の食い違いが起きる。 野田・オバマ会談における発言問題の混乱を解決できないような野田 首相が省庁横断的なTPPチームが作れるはずがないのである。 たとえ作ったとしても上手く機能するはずはないのである。 官僚組織の権限争いがこの国を滅ぼす見本である。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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天木直人(元外交官・作家)