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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

ギリシャ危機と「もうひとつの日本」の立ち上げ 
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年11月5日第777号 ■     =============================================================   ギリシャ危機と「もうひとつの日本」の立ち上げ                                             =============================================================  これから書くことはいささか長くなるがご容赦願いたい。  これから書くことは私の独り言のようなものだ。しかし独り言では あるが大袈裟にいえばこれは私の人生の回顧録であり、同時に「もう ひとつの日本」に挑戦するあらたな人生の出発にあたっての決意表明で ある。  読者には以外かもしれないが、私の外務官僚人生の中で、私の専門は アフリカ問題と経済協力問題である。決して日米安保問題ではない。  私の外交官生活の始まりは米国研修を経てナイジェリアに赴任した時 から始まった。1972年の夏のことである。  米国での語学研修を終えた私は、まともな衣装を何一つ持たず、ロン ドンに立ち寄ってとりあえず背広を2着つくり、それを詰め込んだ鞄一 つでナイジェリアへと外交官人生を踏み出した。  黄熱病とかコレラとか、もう忘れたが、一度にたくさんの注射を無理 して打ったために熱が出て、機中でぐったりしていた私を起こしたのは、 ナイジェリアに勤務している父親を母親に連れられて尋ねに行くという 5歳の英国人の少女だった。下を見て、地中海が見えるよ、そういって 私の肩をゆすった少女に起こされて思わず見た地中海の碧さをいまでも あざやかに思い出す。  当時のアフリカは確かに何もかも遅れていた。仕事で車を飛ばして地方 に行き、道に迷って行き着いたところは、廃れた教会のある原野で、遠く に煙がたなびいていた。その昔読んだ、スタンレーやリビングストンの 探検記の時代もこのような風景であっただろう、としばし思いにふけった りしたものだ。  それから十数年たって私は英語圏のアフリカを担当する課長になった。 私は管轄地域のアフリカ諸国をくまなく訪れ、その国の元首たちと片っ端 から会うようにつとめた。私の仕事はそんなアフリカ諸国の経済発展に 貢献することと、そのようなアフリカ諸国と日本の関係を強化することで あった。黒人を差別する南アフリカ白人政権と向かい合うことになった のもその時であった。  ナイジェリア勤務とアフリカ課長の間に私がかかわった仕事は様々で あったが、その中で一番ながく担当したのが経済協力であった。    そこで私は日本の経済協力政策の現実を見た。およそ予算に関する事は、 最後はすべて大蔵省が決定権を持つ。そして大蔵省といえば、世銀・IMF を自らの縄張りと自認し、国際金融における対米従属を一手に引き受ける 官僚たちの集まりであった。  アフリカ諸国への経済協力の決定も、その国がIMFの方針にいかに従順 であるかによって決められる。IMFの作製するカントリーレポートの提言 に従わなければ援助しない。援助が欲しければそれに従え、と。  しかしIMFの求める構造改革を進めるとその国の国民生活は破綻し、 政権が崩壊する。まさしく今のギリシャの如くだ。  私はアフリカ課長の時、そのような経済協力は本当の経済協力にならない と内部で主張したが外務省の経済協力局は大蔵省に逆らえない。それに対米 従属においては外務省も大蔵省に引けをとらない。私の意見は届かなかった。  もうひとつ、外務省には地域局を軽視し、機能局を偏重する大きな誤りが 進みつつあった。すなわち外務省組織は大別すると、地域を担当する地域局 と、条約や経済協力や情報収集・分析などを担当する機能局に分かれるが、 いつごろからか地域局が軽視され、機能局が重用されるようになった。その 結果地域局の声が弱くなり、機能局の声が強くなった。もちろん唯一の例外 としての北米局があった。  私は、外務省は地域局を重視しなければいけないと考えていた。なぜ ならば地域局こそ外務省しか真似の出来ないその国との関係構築ができる 部局であるからだ。世界中に日本大使館を配し、その国の生の情報をもっと も早く、正確に得られる部局であるからだ。  しかし外務省は地域局の声を軽視し、アフリカの事情を顧ることなく、 IMFの論理を押しつけていった。アフリカは近代化と貧困の格差が拡が って行った。  今我々の目の前で繰り広げられているギリシャ危機は私が書いて来た ことと決して無縁ではない。  国民投票を言い出したパパンドレウ首相ひとりが悪者になっているが それ以外に方法はあったというのか。  危機の発端は、2年前、パパンドレウ首相がギリシャの財政赤字の粉飾を 告白したからだった。  サブプライムローン問題やリーマンショックで明らかになった米国主導 の行過ぎた金融資本主義が欧米を蝕んで久しい。その病の果ての粉飾赤字 であり今に通じるギリシャ金融危機の始まりだ。  この危機を乗り切るにはユーロから決別し、一からやり直すしかないの ではないか。それを国民に問うほかはないではないか。パパンドレウ首相の 国民投票案は羽交い絞めにあって撤回を余儀なくされたが、それでギリシャ 危機は終わらない。  いっその事ギリシャは破綻したほうが良かったのではないか。ギリシャ 国民も、だからどうなんだ、と開き直ったほうがよかったのではないか。  欧米諸国の首脳はなぜギリシャに国民投票回避を迫ったのか。ギリシャが 破綻すると恐れたからだ。ギリシャが破綻すれば金融恐慌が連鎖することを 恐れたからだ。パパンドレウ政権やギリシャの国民生活がどうなろうと、 ギリシャの破産だけは避けたかったからだ。  しかし、ギリシャに財政支援を行ない、それと見返りにギリシャに緊縮 財政を求めて、それで問題は解決するのか。断じてそうではない。  リーマンショック、いやその前のサブプライムローン問題で、米国主導の 行き過ぎた金融資本主義体制の破綻は明らかになっていたはずだ。当時 IMF体制の見直しが叫ばれ、サルコジ大統領は今でもIMF改革を訴えて いる。しかしそれが出来ないのだ。誰も米国の行きすぎた金融資本主義を 変えられないのだ。  そして、巨額の財政赤字では引けを取らない日本の野田首相は、世界に 増税を宣言して緊縮財政をさらに進めると世界に宣言した。破綻した米国 金融資本主義に忠誠を尽くすと言った。  おりしも米国生き残りのためのTPPに参加して国民生活を米国に差し出 そうとしている。対米従属政策の行き着く先である。  これと対照的なのが中国の胡錦涛主席だ。欧米金融資本主義の立て直し よりも新興国や開発途上国の内需拡大によって世界経済を立て直すべきだと 言った。壊れてしまった欧米金融資本主義にいくら金をつぎ込んでもドブに 捨てるようなものだと言わんばかりだ。対米従属の野田首相とは好対照だ。  ギリシャの危機が回避されようがされまいが欧米金融資本主義の危機は 続く。その危機を、たとえ米国金融資本主義とそれから利益を得るものたち が、詐欺まがいの金融技術を駆使して乗りきったとしても、その後に残る のは格差の拡大と荒涼とした社会だ。人間らしさの喪失である。  それで納得するものたちはいいだろう。しかしその埒外にある者たちも また人間らしく生きる権利がある。そのような者たちは自らの手で自分の 生活を守るしかない。そのためには頭を下げてこいねがうのではなく、 その権利を与えろということだ。それを要求する権利があるということだ。  野田政権の政策が進めばギリシャの危機は間違いなく日本にも及ぶ。 ギリシャ国民の苦しみは日本の国民の苦しみとなる。  いや、米国の行きすぎた金融資本主義から決別できない指導者を持つ国は、 その国の国民は、同じ危機におびえ、苦しむことになる。  ひょっとして、いや間違いなく、欧米の為政者たちは世界的規模の歴史の 転換期のトバ口の前に立ちすくんでいるのだ。  「もうひとつの日本」づくりはそのような中で必然的に生まれてきたと 思っている。                               了                             ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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