□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月21日発行 第351号 ■ =============================================================== オバマ米大統領の中東和平提案を素直に歓迎する =============================================================== パレスチナ紛争の公平で永続的な解決を願う一人として、 今回のオバマ大統領の和平提案を素直に歓迎する。 その上で、この提案についての私の所感を思いつくままに 書きとどめておきたい。 1. 今回のオバマ提案はいくら歓迎しても歓迎しすぎる ことはない。中東和平交渉の原点を1967年の第三次中東 戦争前の国境に立ち返るという考え方は、これまでにも多く の関係者が口に出してきた暗黙の合意であるが、米国の大統領 がこれを明確に公式発言したのは私の知る限りでは初めてだ。 このオバマ提案を過小評価してはいけない。むしろオバマ 大統領を褒め殺しして後に戻れないようにすべきである。 2. オバマ大統領のこの提案の背景にあるのは、テロとの 戦いへの行き詰まりと中東民主化の広がりに対する米国の危機感 がある。すなわちオサマ・ビン・ラデンの暗殺における勝利宣言 とは裏腹に米国はアフガン、イラク、パキスタンでの「テロとの 戦い」にもはや勝てない。財政的にもテロとの戦いを継続できな い。おまけに中東の民主化が反米、反イスラエルにその矛先を向 けてくるおそれが高まりつつある。 今回のオバマ提案の背景にはそのような米国のジレンマがある。 この事は正しく認識しておく必要がある。 しかしたとえそうであっても米国の中東政策の変更は素直に 歓迎されるべきであることは前述した通りである。 3. もちろんオバマ提案が直ちに中東和平の進展に結びつく 保障はない。中東和平の進展は一重にイスラエルがその間違った 政策をあらためることにかかっている。 しかしイスラエルにその気配はない。それどころかオバマ提案に 反発している。20日からはじまる米・イスラエル首脳会談も喧嘩 別れに終わるだろう。 しかし、オバマ大統領はもはや後には戻れない。今度ばかりは ネタニヤフ首相も反発するだけでは展望は開けない。中東民主化の 大きなうねりはやがてイスラエルに政治決断を迫ることになると私 は期待したい。 4. そこで重要になってくるのはパレスチナ強硬派の出方だ。 私がハマスの指導者であれば、このチャンスを決して逃さない。 すなわち一切の武装抵抗を控え、イスラエルの生存権を認め、 イスラエルにオバマ提案を拒否する口実を与えない。そうすること によってはじめてイスラエルの主張の誤りを国際社会に明らかにさ せることができるのだ。 確かにパレスチナは米国に裏切られてきた。オバマ提案を冷やや かに受け止める気持ちもわかる。しかしオバマ提案を懐疑的に見て はいけない。褒め殺すのだ。協力するのだ。その事によって米国と イスラエルの交渉に世界の注目を向けるのだ。米国とイスラエルに 国際世論の圧力を向かわしめるのだ。 残念ながら私はハマスの指導者でも助言者でもない。しかしこれ こそがパレスチナの正しい戦略である。私がレバノンの大使をして いるのであれば真っ先にそれを関係者に伝えに行っただろう。 5. 最後に私が指摘して起きたいのは、このオバマ大統領の 歴史的提案に対する日本の反応の鈍さである。まともな社説を掲げ たのは毎日だけであった。 それよりもなによりも菅首相の談話が発出されていない。 オサマ・ビン・ラデンの暗殺の時にはすかさず歓迎のコメントを 発した菅首相であったのに、はるかに重要なオバマ大統領の和平提 案に対し沈黙するこの外交音痴ぶり。それを許す外務官僚の怠慢。 この事一事をもってしても、今の菅政権が機能していないことは 明らかだ。サミットに出席する資格はない。 了
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