□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月22日発行 第352号 ■ =============================================================== サミットの結果とそれを報じる日本のメディアの書きぶりを予想する =============================================================== サミット前の首相退陣の攻防は菅首相の勝ちに終わった。 菅首相は週明けの5月23日、24日に首相官邸で最終準備会合 を行なった上で26日からのサミットに向けて出発する(5月22 日日経)。 そしてサミット後に再び菅おろしの攻防が始まる。その時の争点は もちろんサミットにおける菅首相の評価だ。 もちろん菅首相はそれを十分に知っている。だからこそすべての ビル・住宅に太陽光パネルを設置するなどという「サンライズ計画」 を突然言い出したりして、再生可能エネルギー重視で指導力を発揮 しようとしているのだ。 果たして菅首相に活躍の余地があるのか。 もちろんない。 5月22日の毎日新聞は各国の支局からの報告を持ち寄って今度の サミットに望む各国の思惑を見事に浮き彫りにしていた。 それは決して菅首相の活躍ぶりを否定するものではない。 菅首相のサミットに臨む方針もそれなりに評価的に伝えている。 しかし各国の対応を知れば知るほど、菅首相には出番はない事が わかる。 主役は議長国であるフランスのサルコジ大統領と、常にサミットの リーダーである米国のオバマ大統領である。 その二人はすでに原子力の平和的利用の重要性を再確認する事で 一致している。 最大の原発国であるフランスは福島原発事故で原発反対派が倍増 (約60%が反対)した事を受け、とんでもないヘマをやってくれた 日本への怒りと不満をぐっと飲み込んで、原発の安全性重視を訴え、 安全性に関する国際的な基準作りに指導力を発揮しようとする。 「脱・輸入原油」を目指す米国は、原子力を含むクリーンエネルギ ー開発をエネルギー政策の大きな柱と強調し、やはり日本の原発事故 の対応に不満を抱きながらもそれを表には出さず、「次世代原発の 設計・建設に日本の事故の教訓を生かしたい」と主張し、原発の安全性 に対する国際的枠組みづくりではフランスと一緒に主導力を発揮する。 その一方で米国の関心は中東の民主化支援だ。タイミングのいい オサマ・ビン・ラデンの暗殺をきっかけに中東政策の軸足を「対テロ」 から「民主化支援」に移行しようとする米国は、それを各国に分担させ るため、今度のサミットを中東への国際的な支援強化の場としたいのだ。 福島原発事故を受けて主要国の中で唯一明確な「脱原発」に切り替え たドイツは、議長国の仏を配慮してすでに準備段階で脱原発を強調しな いことにした。各国による水面下での宣言文の草案過程で「脱原発」に 言及した箇所が削除された(5月19日南ドイツ新聞)。「国際社会 として安全基準を強化する」と主張して仏米と歩調を合わせる。 そのような中で日本の対応はもはや限られている。国際社会からの 支援に感謝する。原発の安全性強化に取り組むことを表明する。自然 エネルギー重視の方針を打ち出す、これである。 浜岡原発停止を発表して国内的には脱原発のイメージを与えた菅首相 であったが、国際的にはそれを言わないことに決めた。民主党内に原発 推進派がいるからではない。菅首相は米国の意に反することは絶対にし ないのだ。 だからサミットでの首相発言は、「原発から自然エネルギーへの移行」 ではなく、もっぱら「自然エネルギーの推進」なのだ。 このようなサミットであるとすれば果たして菅首相は指導力を発揮した ことになるのか。サミットでの存在感があったと評価できるのか。 もちろん答えは否である。 しかし、菅首相を支え続けるわが国の大手メディアは、サミットの報道 を決して否定的に書かないだろう。 サミット報道で色々と便宜を図ってもらう大手メディアは政府に嫌われ るような記事を書きにくい。 日本の震災復興に向けて各国首脳の一致した協力を取り付けることが できたと強調する。日本の風評被害回避の要請に理解を示したと書く。 それはその通りである。しかしそれは日本発の経済危機が世界に及んで はたまらない、日本の危機を抑え込まなければならない、と言う危機意識 の表れなのである。 今度のサミットで日本の立場はどう考えても「負の主役」である。 サミットの開催中でもまだ放射能撒き散らしている日本が指導力を発揮 できることなどどう考えても無理である。 了
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