□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月8日発行 第323号 ■ =============================================================== 北沢防衛大臣の沖縄訪問の目的は何だったのか =============================================================== 菅首相を追い込むのは政局でも原発事故でもない。沖縄問題だ。 米国を訪問して新日米同盟を宣言できるかだ。そして菅首相の野心 と悲願もまたそこにある。 だから私は今日(5月8日)の報道の中で、5月7に行なわれた 北沢防衛大臣の沖縄訪問の記事を最大の関心を持って読み比べた。 北沢大臣の沖縄訪問が最初に報じられたのは連休中の4月30日 の東京新聞だった。 すなわち、日本政府が米側に譲歩して代替飛行場の滑走路をV字 型に決めた、その方針を伝えるために北沢防衛大臣が5月7日沖縄 を訪問する、とその記事は報じていた。 それを読んで私は思ったものだ。あれだけ沖縄が県内移設に反対 しているというのに、沖縄の頭越しに米国と協議し、それを事後的 に沖縄に押し付ける、こんな訪問ははじめからうまく行くはずはない だろう、と。 そして5月4日にウィキリークスが明らかにした日米両政府の背信 である。私は思った。もはや沖縄訪問は中止せざるを得ないだろうと。 しかし予定通り訪問するという。どんな話になったのか。それを大手 新聞はどう報じるのだろうか。これが私の関心であった。 5月8日の各紙の報道は判で押した様に次のようなものだった。 日米合意に理解を求める北沢大臣に対し、仲井真知事はあくまでも 県外移転を求め、議論は平行線のまま終わった。普天間基地の固定化 が懸念される・・・ 何のことはない。北沢大臣は米国に対し、仲井真知事は沖縄住民に対し、 よく頑張っているとパフォーマンスをする。絵に描いたような猿芝居だ。 そう思って詳しくその記事を読んでいくと次のような興味深い箇所を 見つけた。 すなわち5月8日の朝日新聞は、既に4月28日の時点で菅首相は 北沢大臣らと協議して普天間移設を2014年に完了するという日米 合意はもはや実現困難で一致していたと書いている。 実はこのことは既に5月7日の読売新聞が、菅首相と松本外相、北沢 防衛相、枝野官房長官が4月28日に会談し、日米合意の予定通りの 実施を公式に断念した、とスクープ報道していた。 しかも、その読売新聞のスクープは、合意の断念は米国側から提案し てきたというのだ。その提案は、先日訪米したレビン上院軍事委員長から なされたというのだ。 読売新聞はこの事を、「かつては実施可能だったが、連続する遅れに より深刻なコスト増を招いている」として計画練り直しを求めた、と 書いている。 この書き方はあたかも日本側がモタモタしているからコスト増になっ たといわんばかりであるが、実はそうではない。米国の財政赤字のため 日米合意の米側負担分を米国議会が承認しなかったからだ。その米側 負担分を日本側が肩代わりしなければ在沖縄米海兵隊のグアム移転が できなくなったのだ。 要するに普天間問題の焦点は、グアム移転が完了しない限り普天間 基地を継続使用するがそれでいいか、それがいやならグアム移転経費 の米側負担肩代わりを日本が行なえ、という米側の要求に日本政府と 沖縄がどう対応していくか、という事に移ったのである。 この事は北沢大臣も仲井真知事も知っている。どちらも困った事に なったと頭を抱えている。そのことを問わず語りに確認し合うための 二人の会談であったのだ。 しかし二人の真の悩みは他にある。それはウィキリークスが告発した グアム移転経費の粉飾だ。 北沢大臣がこの事に触れない事はわかる。 しかし普天間基地の県外移設を求める仲井真知事にとっては最強の カードになるはずだ。これまでの日米合意の正統性がなくなったのだ から白紙に戻して再交渉してくれと言うべきだ。沖縄住民が日米両政府 の背信に怒り声をあげれば米国は沖縄から出て行かざるをえなくなる。 しかし今度の会談ではウィキリークスは一切言及されなかった。 5月8日の各紙はウィキリークスが普天間問題の交渉に与える影響 を見事に黙殺している。 北沢大臣も、仲井真知事も、大手メディアも困惑の思いは同じだ。 ウィキリークスの衝撃はそれほど彼らにとって大きいということである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)