□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月7日発行 第322号 ■ =============================================================== 菅首相は今こそ原発政策と日米同盟について国民の信を問うべきだ =============================================================== 私のメルマガを購読いただいている賢明な読者におかれては、 まさか今回の菅首相の緊急記者会見を手放しで歓迎していること はないと思う。 この記者会見をテレビ放送で知った私は、直感的に思った。 これは追い込まれた菅首相がみずから思いついた壮大な延命工作 であり、ウィキリークスで追い込まれた普天間問題隠しであると。 そして今朝の各紙が一面トップで掲げる浜岡原発中止の記事を 読んで私の直感は確信となった。 しかし見ているがいい。どんなに菅首相が策を弄しようが、 そして大手メディアがそれに協力しようが、この二つは前門の虎 と後門の狼となって日増しに菅政権を追い詰めていくだろう。 菅首相はもはや姑息な延命工作をすることなく、本当に政権維持 を願うのであれば国民に信を問うべきなのだ。それこそが王道で あると知るべきなのだ。 その事について書きとどめておきたい。 まず、浜岡原発の停止要請だ。 浜岡原発の停止要請自体はもちろん歓迎されるべきである。しか し、浜岡原発の操業停止要請はもはや当然の事である。皆がその 危険性を訴えるようになった。 問題はわが国の原発政策をどうするかということである。 福島原発事故が露呈した原発政策の矛盾は、いまやこの国の今後 のエネルギー政策をどうすべきかについて、国民的議論を尽くした 上で再構築する必要性を迫っている。 それは今すぐ原発を全廃すれば良いという性急な問題ではない。 脱原発という基本方針を定め、それを実現するために関係者すべ ての協力の下で進めていく決断をするかどうかである。 菅首相は原発政策のあり方につきいまだ一度たりとも自らの考え を示した事はない。そして今度の唐突な浜岡原発の停止要請だ。 しかも報道によればこの決断は菅政権が十分議論を尽くして決定 し、下されたものではない。それどころか慎重論が多い中で、一部 の側近の意見に基づき菅首相が下したものであるという。 これではうまく行くはずがない。浜岡原発操業の一時停止は誰も 反対できないから行なわれるとしても、その後どうするか、という ことで様々な意見が出され混乱の極みになるだろう。 そして原発政策の見直し論議に水が差されることにおそれがある。 私はそれを残念に思うのである。 しかも菅首相のこの独断が、自らの政権浮揚を狙う姑息な政治的 思惑から出たものであるならどうだろう。週明けにも大問題になる 普天間問題の追及をかわすための緊急記者会見であるとしたらどう だろう。 奇しくも5月7日の読売新聞は浜岡原発の操業停止を報じる一面 で、日米は普天間移設の2014年まで実施は困難であることを近 く正式決定する、と報じている。これで普天間基地の現状固定化は 不可避である、と報じている。 しかし、その裏にあるウィキリークスの米外交公電については 一切触れようとしない。 原発問題とならんで日米同盟の深化もまた、その掛け声とは裏腹 にいまや完全に行き詰まっている。米国の菅政権に対する信用は もはや完全に失われ菅首相の訪米もままならなくなっている。 これを要するに、菅首相が浜岡原発の一時停止の記者会見を6日 の夜に突如行なったぐらいではどうにもならない状況にあるのだ。 私は菅首相にこころから伝えたいと思う。 菅首相が本当に首相の地位に長くとどまりたいのなら、日本の 将来を決するこの二つの大問題について今こそ自らの考えを明確に 示し、解散・総選挙で国民の信を問うべきであると。 今こそその勇気を持つべきなのだ。そしてそれはまた物事を真剣 に考えることを避けてきたこの国の国民にもまた決断の責任を迫る ことでもある。 経済成長のためには原発は必要だ、安全性をさらに強化した上で 原発を維持していくべきと考えるか、それとも非人間的な核に頼ら ないエネルギー政策を時間をかけて実現していく方向に舵を切るの か、日本の安全保障政策をこれからも日米同盟に依存して従属して いくのか、それとも日米同盟から決別して自立した安全保障政策を 追及していくのか、これらは日本国民が最後は自らの責任で決めな ければならない問題である。 そしてこの二つの問題は、これまで議論を避けて曖昧なままに 官僚主導で政策が先行してきた問題である。 しかしこれら二つの問題の矛盾は、原発事故とウィキリークスの 告発によって見事に露呈し、もはや待ったなしに国民が決断しなく てはならない時期にさしかかっている。 菅首相はこの二つの問題について、まず自らの考えを明らかにし、 それを国民に説得した上で、国民の信を問うのだ。 国民に自らの考えを納得させることが出来れば晴れて最強の首相 として再任され、歴史に名を残す首相となれる。 そうでなければもはや首相の座に居座る正統性も、意味もなくなる。 それだけの話である。 あたりまえのことであるが、政治家としてその勇気を持てるかどうか、 だけの話である。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)