□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年4月27日発行 第301号 ■ =============================================================== シリアと米国・イスラエルの本当の関係 =============================================================== 中東の民主化の動きは今も続いている。そしてその帰趨は中東に とどまらず国際政治の権力構造を変えるかもしれない重要性を持っ ている。 しかしその事を正しく報じる日本の報道は少ない。報道の視点が 定まらない。だから日本国民は正しく理解できないままだ。 もちろん中東情勢は様々な要素が絡んでいる。しかしその中の何が 一番重要な視点か。それは中東の民主化がパレスチナ問題の解決に 向けて進展していくかどうか、という視点である。 この視点で最近の動向を見ると、やはり何と言っても重要なのは シリアの民主化の動きである。 中東情勢の影の主役はイスラエルである。イスラエルは自らの安全 保障をすべてに優先し、世界最強の情報機関を駆使して、中東のあら ゆる動きに関与し、工作をしてきた。 そのイスラエルから見れば中東の民主化は好ましくない。 独裁政権を利用してそれぞれの国の反イスラエル大衆運動を抑え 込むことが好ましいからだ。 米国は、イスラエルと違って「民主化」に正面から反対は出来ない。 その一方で米国歴代政権はユダヤロビーに牛耳られている。そこに 米国のジレンマと中東民主化への政策の曖昧さがつきまとう。 エジプト革命は、インターネットの威力であっという間に大衆革命 に突き進みムバラク崩壊まで行き着いた。 これはイスラエルにとっても米国にとっても想定外だったに違いない。 だからこそ、それが中東全域に拡がらないように周到な手を打ち始 めた。イスラエルがカダフィ大佐を裏で支援している事が明らかに なったのもその証拠の一つである。 エジプト革命以降、中東民主化が頓挫しつつあるように見える最大 の理由もイスラエルの工作と米国の不介入にその原因がある。 しかし、米国はイスラエルと違ってジレンマがある。民主化の動きに 正面から反対することは出来ない。民衆を武器で鎮圧する政権を認める 訳にはいかない。 当初リビアへの軍事介入に消極的であった米国がここに来て欧州と 歩調を合わせるかのようにカダフィ体制の排除により積極的になりつつ ある理由もそこにある。 おそらく長引いたリビア情勢も最後はカダフィ体制の排除まで行く だろう。 そこでシリア情勢だ。 アサド独裁体制はカダフィ独裁体制よりもイスラエルと米国にとって ははるかに重要だ。それはアサド独裁政権が反イスラエル、反米の 「テロ」を抑える能力を持っているからだ。 イランと並んでシリアはいまや中東では反イスラエル国家として 最後の「テロ支援国家」とされている。 実際のところシリアは、イランと並んでレバノンの反米、反イスラエル テロ組織ヒズボラを支援している。 そんなシリアをイスラエルは攻撃している。シリアの一部をいまだ軍事 占領したままだ。 どう考えても米国、イスラエルとシリアは敵対関係にある。 ところがそのシリアが裏で米国、イスラエルと通じていたとしたら どうか。 俄かには信じられないが、これはレバノンの識者の間では暗黙の了解 であった。 つまり反米、反イスラエルの「テロ支援国家」であるはずのシリアが、 実はテロを監視し、抑圧する親米、親イスラエル国家であると言うのだ。 この事を昨晩(4月26日)の古舘伊知郎の報道ステーションにおいて コメンテーターの五十嵐浩司氏がテレビの前で話したのを聞いて私は 驚いた。私の知る限り、この事をメディアで明言したのは彼が始めてだ。 シリアの情勢は日増しに悪化している。アサド大統領も民衆に武器を 向けるようになってきた。 リビアと同様に米国はシリアに対しても遅ればせながら厳しい政策を とり始めだした。 カーニー米報道官は4月25日、デモ弾圧で多数の死傷者が出ている シリア情勢について、米政府が追加制裁を検討していることを明らかに した。アサド大統領や家族、政府高官らの資産凍結や渡航禁止を検討中 だという(ワシントン 共同)。 果たして米国はアサド体制を見放すのか。カダフィに次いで、アサド 独裁体制も終焉に向かうことになるのか。 レバノンで米国とシリアの関係を見てきた私には俄かにはそう思えない。 シリアはエジプトのようにはならない。 そんな私の「常識」が覆るような民主化が中東に起きてほしい。 そう思って私はシリア情勢を眺めている。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)