□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年4月27日発行 第300号 ■ =============================================================== ブッシュ前大統領に酷評された小泉元首相 =============================================================== ブッシュ大統領の「私の履歴書」はあと三回ほどで終わるが、 それに先駆けて私がもっとも注目した箇所を紹介して「私の履歴書」 についての最後のコメントとしたい。 私の最大の関心事は、「戦後の日米関係史の中で最も緊密な仲で ある」とさんざん喧伝されたブッシュ・小泉関係について、果たし てブッシュ大統領が「私の履歴書」の中でどう言及するだろうか、 ということであった。 日本の読者を想定して書かれた「私の履歴書」では、ブッシュ 大統領が小泉首相の事に言及する箇所が何度も出てくる。そしてそれ はもちろん好意的なものだ。 しかし、注意して読むとブッシュ大統領は驚くほど率直に小泉首相 の言動を批判していることがわかる。それが最も端的にあらわれて いたのが4月23日掲載の第23回であった。 たとえば小泉首相の靖国参拝で悪化した日中関係についての考え方 の違いをこう述べている。 小泉首相の最後の訪米となった2006年の首脳会談において、 ブッシュ大統領は日中関係の悪化を懸念して『中国はどうなっている』 と小泉首相に問い合わせたという。 それに対し、小泉首相は『中国は靖国参拝という一つの問題で首脳 会談を行なわないとの立場だが、自分は納得できない』と説明して くれたという。 そしてこの事に対しブッシュ大統領は、「私は注意深く耳を傾ける ことに徹した」と書いた後でこう述べている。 「いずれにせよ、私が望んでいたのは日中関係が良好な関係を維持 するということだったのである」、と。 明らかにブッシュ大統領は小泉首相の説明に納得しなかったのである。 しかし、私が最も注目したのは次のくだりである。 これが今日のメルマガのハイライトである。 ブッシュ大統領の小泉評価があまりにも的確なので、日経新聞の文章 をそのまま以下に引用する。 「・・・実は06年の訪米時、私は小泉首相に『米議会で演説をしな いか』と打診している。だが、最も偉大な演台の一つを提示されたにも かかわらず、彼はそれを辞退した。代わりに選んだのがグレースランド (筆者註:エルビス・プレスリーが暮らした地)だった。彼は表舞台 から退場する方法として、とても面白い方法を選んだ。だから、グレー スランドへの訪問は私にとって、大統領の任期中に経験した旅の中でも 最も思い出深いものの一つとなった・・・」 実はブッシュ大統領は「私の履歴書」のほかの箇所でも、小泉首相 がエルビス・プレスリーの愛娘の肩に手をやって歌ったことを書いて いる。よほど印象深かったのであろう。 米国の政治を少しでも知っている者であれば、米国議会での演説に 招待されることがどれほど栄誉であるか容易にわかるだろう。わが日本 の小泉首相はこれを断ってエルビス・プレスリーの歌を選んだのである。 ブッシュ大統領はどれほど驚き、失望したことだろう。 この文章は日本人読者向けに皮肉的に書かれているが、この上ない 酷評なのである。 実はこの話は当時日本の新聞でも小さく報じられた事があった。私は それを見逃さなかった。こんな話を断るなどということがあるのだろうか、 外務官僚たちは「これ以上の名誉はありません。是非お受け下さい」と 体を張ってそれを小泉首相に薦めなかったのだろうか、それとも小泉首相 は、いう事を聞かずにエルビス・プレスリーの歌を歌いたかったのだろう か、と思ったりしたものだ。 それから6年たって、図らずもブッシュ大統領の回顧録の中でブッシュ 大統領の思いを知った。 ブッシュ大統領は小泉首相を好んでいたことは間違いない。何とかほど 可愛い者はない、というたとえ通りである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)