□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年4月26日発行 第297号 ■ =============================================================== 米国とイスラエルの関係を明かしたブッシュの「私の履歴書」(前) =============================================================== 日経新聞に連載で掲載されているブッシュ大統領の「私の履歴書 」の中で、ついに貴重な情報を見つけた。 4月25日の連載第25回目がそれである。 中東情勢を詳しくフォローされている読者ならご記憶と思う。 2007年9月6日にイスラエル軍の戦闘機がシリアを爆撃した事 があった。 それから一ヶ月余りたった10月13日のニューヨーク・タイムズ 紙が、攻撃の標的は、「北朝鮮の核施設をモデルにした建設中の核 施設であったと見られる」、と報じた。 この報道は当時様々な憶測を呼んだが曖昧なまま立ち消えになった。 そしてそれから半年以上たった2008年4月24日、ペリーノ米 大統領報道官は声明を発表し、「シリアが07年9月までにプルト ニウムの生産が可能な原子炉の建設を極秘裏に進めていた」と初めて 公表した。ニューヨーク・タイムス紙の記事の正しさを米政府が婉曲 的に認めた瞬間であった。 それから約3年後の2011年4月25日、ブッシュ前大統領は 「私の履歴書」の中で日本の読者に次のような貴重なやり取りを紹介 したのである。 「・・・『ジョージ、この施設を空爆してくれないか』・・・ イスラエルのオルメルト首相が電話口でそう告げた・・・『・・・ 主権国への空爆は正当化できない』。オルメルトにそう告げると、彼 はこの問題がイスラエルの『存亡にかかわる問題』だと言いながら、 失望をあらわにした・・・私は彼の意見を尊重し、口を閉ざすことに した。この作戦について、オルメルトが私にゴーサインを求めたこと はなく、私も出した覚えはない・・・彼はイスラエルを護るために必要 だと思ったことを自ら実行しただけである」 これは米国とイスラエルの関係を示す名言である。この言葉の中に 米国とイスラエルの関係のすべてが凝縮されている。 「中東政策に関して、イスラエルと米国のどちらが主導権を握って いるか」、これは最大の疑問である。そしてこのブッシュの言葉は見事 に一つの答えを示している。 つまり、中東政策に関する米国とイスラエルの政策は時として異なる。 その場合どちらの国が決定権を持つかはその時の米大統領とイスラエル 政権の強さによって異なる。つまり一概にどちらの国が決定権を持つか は言えないのだ。この場合少なくともブッシュ大統領はシリア爆撃に 反対した。しかし、イスラエルは米国の協力がなくても単独でこれを行 なった。ブッシュ大統領はそれを強く非難する事なくイスラエルの立場 に理解を示した、これである。 このブッシュ大統領の「私の履歴書」を読んで、私は4月20日の 産経新聞の記事を思い出した。その記事はワシントン発共同通信の配信 を次のように報じていた。 「オバマ大統領は4月18日、イスラエルのネタニエフ首相と電話 会談し、イスラエルが配備した対空防衛システムでガザから発射された ロケット弾数発を迎撃した成果を祝福した。米政府は同システムに対す る財政支援として通常の軍事支援とは別に2011年度予算として2億 500万ドルを支出した」 少なくともオバマ大統領はブッシュ大統領以上にイスラエル寄りだ。 そしてそれは今のオバマ大統領が当時のブッシュ大統領よりも弱体政権 であることを意味している。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)