□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年4月16日発行 第275号 ■ =============================================================== 国連の平和実現に対する機能不全と中東民主化革命の頓挫 =============================================================== 3月11日に大震災が起きてから、すっかり日本のメディアで 取り上げられることがなくなったが、中東民主化の動きはその後 どうなっているのか。 メルマガで書き尽くすにはあまりにも大きなテーマであるが、 どうしても一度は書いておかねばならないと思う。 すこし長くなるが我慢してお付き合いいただきたい。 エジプト革命で大きな流れになったと思われた中東の民主化革命 がリビアで頓挫しかかっている。 もちろん結論を出すのは尚早かもしれない。 今更カダフィの復権は許されないし、シリアやイエメン、バハ レーンの反政府運動は今も続いている。 しかし、もはやエジプト革命で世界が目撃した民主化のうねりは 感じられない。 なぜ中東の民主化革命は一直線に進まなかったのか。 最初に書いておかなければならないのは、今回のリビアに対する 武力行使が間違いだったのかどうか、という事である。 これに対する私の答えは単純、明快だ。 武力行使自体が間違っていたわけではない。 武力行使が、私の言う一致、迅速、公平に行なわれず、従って それが今のところ奏功していないということだ。 いかなる意味でも武力行使は許されないという絶対的平和主義の 立場に立てば、国連が認める武力行使ですら認められない事になる。 そして私はそのような絶対的平和の考えは尊いものであり、人類 が目指す理想だとは思う。 しかし残念ながら世界はいまだその理想に到達していない。 戦後の国際社会の枠組みである国連憲章は国連安保理決議を前提 として例外的に武力行使を認めており日本もその国連に加盟している。 憲法9条を持つ日本はその武力行使に参加できず、また参加する 必要はないが、少なくとも国連憲章は尊重しなくてはいけない。 そして自国民を武力で攻撃するというカダフィ政権は如何なる意味 でも擁護できないことも事実だ。 武力行使の決議にする中国やロシアが、自らの国民を武力で弾圧 する国であることを考えれば、中国やロシアの反対が絶対的平和主義 の観点からなされたものではないことは明らかだ。 絶対的平和主義でカダフィ政権の非人道的な行為を止めさせる事が できない事も自明だろう。 繰り返して言う。 カダフィ政権の非人道的行為を武力行使で排除しようとした国連決議 が間違っていたのではない。 その目的を達成するための武力行使が不十分であったということだ。 そしてこの事実が世界の平和に及ぼす影響は深刻である。日本の憲法 9条にとっても深刻である。 なぜならば、国連が平和実現を達成できなければ、欧米、NATO 主導の軍事力行使やむなしということになるからだ。 無法者の軍事的攻撃から自国を守るためには自らも軍事力を持た なければならないとする考えが説得力を持つようになるからだ。 いま我々が考えるべき事は、なぜ国連が認める武力行使がなぜ奏功し なかったのかということである。 その最大の理由は、たとえ国連安保理決議によって武力行使が認め られたとしても、その武力行使の主体が常に欧米主導でありNATO 主導であるからだ。 各国が軍事力の指揮権を国連に委ねないからであり、国連もまた そのような大きな権限を持とうとしないからである。国連軍では荷が 重過ぎるのだ。 だから国連決議の下での軍事力の行使といえども、常に有志連合で あり、多国籍軍とならざるを得ない。 そしてその場合には参加国の間での思惑に必ずズレが出る。 私が唱える国連の平和実現の惨状権である、一致、迅速、公平が 守られないことになる。 この不一致を取り上げて、英仏米の軍事力行使は、あくまでも 国益追及のよこしまなものである、とうがった見方をする者がいる が、私はこの意見にも与しない。 確かに英仏米は中東に歴史的にかかわってきており、それゆえに 様々な利害関係を持つ。カダフィ政権とのかかわりや、新政権との かかわりにおいて自国の利害を考慮しても不思議ではない。 しかし、今回の英仏米の武力行使の最大の動機は、リビア市民を カダフィ政権の虐殺から守るという人道的な理由にあった事は間違い ない。 私は国連の平和実現の成否は常に、世界最大の軍事力を持つ米国が 握っていると思っている。 そして今度のリビア攻撃が混迷した最大の理由は、米国が一歩引き 下がったところにあると思っている。 もし米国がイラク攻撃と同じようにリビアを一気に攻撃していたら、 そしてフセイン大統領に対するのと同じほど強くカダフィ排除を行 なっていたならば、リビア情勢は異なっていたに違いない。 なぜ米国は今回のリビア攻撃に中途半端な態度をみせたのか。 その理由についてはいくつかの指摘がなされている。 本格的な軍事介入をする予算的余裕はない。 イラク攻撃で懲りた。 アフガンやパキスタンでのテロとの戦いを優先しなくてはならない、 などなどがそれである。 しかし本当の理由はイスラエルとの関係だと私は思っている。 イスラエルはパレスチナを弾圧し続けるためには中東の民主化 よりも独裁者の存続を選ぶ。 リビアのカダフィやシリアのアサド体制を影で支援する。 民主主義のチャンピオンを自任する米国は世界の手前、そして 自国民の手前、さすがにそこまでのあからさまな政策はとれない。 人道的な立場からカダフィ政権を支持する訳にはいかない。 その一方で米国の指導者達はイスラエルの利益を守らなければ ならない。 この米国のジレンマこそ、米国の中東民主化の立場を曖昧なもの にしているのである。 中東情勢のすべてはイスラエルを抜きにしては語れない。 パレスチナ問題の公正で持続的な解決なくしては中東の平和 はありえない。 私がイラク攻撃に反対して、リビア攻撃に賛成する理由はそこ にある。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)